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第80話
それから一週間が経った。
俺の世界はまるでモノクロのフィルターがかけられたように味気なくなってしまった。俺は立ち上がる気力すら湧かずに寝てばかりいた。
部屋は荒れ、片付けなきゃとは思うものの体が動かない。
料理も菓子作りもする気になれず、冷蔵庫の中の残り物のキュウリを齧ったり、コーヒーだけを食事代わりに済ますような日が続いた。
今が冬休みで本当に良かったと思う。
ずっと部屋に閉じこもり、ろくに食事もとっていない俺は、きっと酷い見た目になっているだろう。
こんな姿、親父に見せられないな。
年末は実家に帰る予定だったが、それまでに心配されないくらいには体調を整えておく必要があった。
この感じだと三キロは痩せてしまっている。
無理してでも食べなきゃ。
今日は近所のスーパーに買い出しに行って何か作ろう。
全くやる気は起こらないし、食欲もないが、そうした方がいいだろう。
それに俺は次のヒートまでに病院に行って、抑制剤を処方してもらう必要があった。
もう、唯人には頼れないから。
うなじの噛み痕に触れ、俺はため息をついた。
その時、インターホンが鳴った。
まさか唯人?
恐る恐る呼び出し画面を見ると、そこに映っていたのは意外な人物だった。
「すみません。いきなり連絡もなしに家を訪ねたりなどして」
「いえ、構いませんよ。ただ、かなり散らかっていて恥ずかしいんですけど。あっ、ここ座ってください」
「ありがとうございます」
突然やって来たのは、唯人の秘書の住友さんだった。
俺は玄関を開ける前に大慌てで、空のペットボトルなどまとめた。
風呂に入る時間なんてなく、一応着替えたが少し匂うかもしれないと気になった。
住友さんの前のテーブルの上に散乱していたコップを、慌ててキッチンに持っていく。
「お茶淹れますね」
「お構いなく」
住友さんを残しキッチンに入った俺は、コーヒー豆を切らしていたことを思い出し、舌打ちした。
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