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第81話

 仕方なくティーバックで紅茶を淹れて、ミルクと砂糖を付けてだす。 「ありがとうございます」  住友さんは紅茶に何も入れずに一口飲むと、俺をじっと見つめた。  眼鏡越しに鋭い視線をむけられた俺はつい俯いてしまう。 「唯人に言われてきたんですか?」 「いえ、私の一存であなたの住所を調べて、勝手に参りました」  意外に思った俺は顔を上げた。  てっきり唯人から伝言でも預かってきたのかと思ったのだ。  あの日から俺と唯人は一切連絡を取っていなかった。  俺からはもちろん連絡をしなかったが、唯人からも電話一本なかった。  唯人が今どんな気持ちでいるのか。  申し訳ないと思っているのか。  それとももう俺のことなどどうでもいいのか。  唯人が何も言ってこない以上、俺があいつの気持ちを知る術はなかった。 「部長……、唯人さんが入社した当初、私は彼に自ら早い段階で辞意を表明していただこうと考えておりました。たかが社長の息子に産まれたというだけで、入社から役員などとんでもない話だと思いませんか?なので、私は唯人さんのことをいびって、いびって、いびり倒しました」  俺は突然の住友さんの言葉に唖然として口を思い切り開けてしまった。  そんな俺の表情を見た住友さんがくすりと笑う。 「もちろんそんな考え、今はありませんよ。ですが、最初の頃は本気でそう思っていましたので、ものすごい量の仕事を唯人さんに押し付けました。ろくに説明もせずにね」 「それ、ちょっと酷くないですか?」  住友さんが「おや?」という風に片方の眉を上げた。 「入社してから唯人がちゃんと仕事をしなかったのなら、そういう対応を取られてもしかたないのかもしれませんけど。唯人はほとんど寝ないで仕事に打ちこんでいました。そんな唯人に……いじめじゃないですか」  俺は声を荒らげ、住友さんを睨んだ。  入社当初の唯人の頑張りを間近で見ていた俺は、住友さんの言葉に腹が立ち、どうしても黙っていられなかった。

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