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第83話
「唯人さんはあなたのことを人として尊敬しているようでした。そのあなたが許せないと決めたのなら、よっぽどのことなんでしょう。あなたの決断に関して、私は口を出す権利なんてありませんし、もとより、そういうつもりで来たわけではありませんから」
「俺は、そんな立派な人間じゃ」
「あなたが自分のことをどう評価しているかは知りませんが、唯人さんにとってあなたは指針であり、光や空気みたいなものだったんでしょね。それなしでは生きていけない。今の唯人さんはまるで抜け殻ですよ」
住友さんはそう言うと俺に向かって頭を下げた。
「突然お邪魔してすみませんでした。失礼いたします」
俺も慌てて頭を下げると、住友さんは足早に部屋から出て行った。
残された俺は椅子に座りなおすと息を吐いた。
「光か」
俺にとっても唯人は眩しい光のような存在だった。
いつもあいつといると笑顔になれて、世界が色づいて見えた。
今俺の世界は凍ったようにひどく寒々しい。
「だからってどうしようもないじゃないか」
ポツリと呟いた俺の言葉に被せるように電話の着信音が響いた。
スマホの画面を見ると、通彦さんからだった。
指をそっと通話ボタンに乗せる。
「はい」
「和希か?今話してて大丈夫か?」
「大丈夫だけど。……どうかした?」
通彦さんが妙に切羽詰まった声で話すのが俺は気になった。
「お前最近、城ケ崎と会ってるか?」
突然唯人の名前をだされ、俺の胸がどきりとする。
「ううん。最近唯人の仕事が忙しくて会えてないんだ。それがどうかした?」
平静を装い俺はそう告げた。
「そうか。さっき奴から電話もらったんだが、どうも様子がおかしかったから気になってな」
「様子がおかしいって?そもそも唯人と通彦さんって電話で話すような仲だったの?」
「いや、あいつからの電話なんて初めてだよ。和希のお父さんが言うから仕方なく番号は交換したが、話すことなんてないしな。
だからいきなり電話がきて驚いたんだ。あいつ変なことを言うし」
「変なことって?」
「いや、俺にさ。自分の首を噛んでくれって言うんだ。おかしいだろ?」
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