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第87話
それから俺と唯人は七回、クリスマスを一緒に過ごした。
その間、俺は小さなケーキ屋でパティシエとして働きはじめ、俺達は入籍も済ませた。
俺の働くケーキ屋のオーナーは近々引退する予定で、俺に店を譲りたいと言ってくれている。
そうして一緒に過ごす八回目のクリスマス。
「毎年クオリティがどんどんすごいことになってきているな」
俺が職場で作ってきたクリスマスケーキを前に唯人がシャツの袖をまくる。
毎年、ケーキを切り分けるのは唯人の役目だった。
「まあ、これでも一応プロですから」
俺はワイングラスに入った、アップルサイダーを一口飲んだ。
ケーキはショートケーキでデコレーションには大粒のイチゴと砂糖で作ったサンタクロース、赤ん坊を抱いた天使をあしらっていた。
唯人は無事ケーキを切り分けると息を吐いた。
「一口ちょうだい」
俺は唯人に請われるままワイングラスを手渡した。
アップルサイダーを飲んだ唯人が首を傾げる。
「シャンパンじゃないの?」
俺はクリスマスにはいつもシャンパンを飲んでいるから不思議に思ったんだろう。
俺はそんな唯人に微笑んだ。
「子供ができた」
唯人は口を小さく開いた後、満面の笑みを浮かべた。
「本当?えっ、マジで。ヤバい。めっちゃ嬉しい。って俺ヤバい、テンションおかしくなってるな。あーどうしよ。嬉しくて、ヤバい。あー」
唯人はふいに真面目な表情になった。
「でも、もちろん和希の気持ち優先だから。和希がまだ俺の子供を産む覚悟が出きていないっていうなら無理強いはしない」
俺は黙ってケーキの上に載っている天使をフォークで突いた。
「俺、唯人にずっと言い忘れていたことがあるんだけど」
「何?」
俺は顔を上げるとまっすぐ唯人を見つめた。
「愛してるよ」
唯人は目を見開くとくしゃりと顔を歪めた。
「だからもちろん子供も産むよ。愛しているお前の子供だもの」
俺はそっと自分のまだ膨らんでいない腹を撫でた。
「今、そんなこと言うのずるいだろ」
唯人が俯き、肩を震わせる。
号泣する唯人を俺はそっと抱きしめた。
「お前意外と泣き上戸だよな」
嗚咽を漏らす唯人の手をそっと自分の腹に導く。
泣き止ませようと思ってとった行動だったのに、唯人の泣き声は一層大きくなって俺はつい笑ってしまった。
おしまい 番外編へ
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