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第2話
イルハリムが皇帝から初めて『叱責』を受けたのは、今夜のように若い側女が夜伽を命じられた夜だった。
――数か月前、後宮を統括する寵妃アイシェが懐妊し、産み月が近づいたために離宮へと住まいを移した。それに伴い、後宮宦官長のイルハリムはアイシェの代理として一時的に後宮を預かる立場になった。
もともと獅子帝ラシッドは、精力旺盛なことで知られている。
若い頃には十人以上の寵妃が後宮で研を競い、毎夜違う女人が皇帝の寝室に呼ばれたものだ。だが、寵妃となったアイシェは様々な理由をつけて、皇帝から寵愛を得そうな他の女人を残らず遠ざけてしまった。
後宮に今も残されているのは、年を取って容色が衰えた女か、年端もいかぬ娘だけだ。事実上、皇帝の寝室に侍るのは彼女一人になっていた。
そのアイシェが出産を目前にして宮殿を離れたことで、側女たちにも夜伽が命じられるようになったのだが、女になるやならずの幼い娘に並外れて逞しい皇帝の肉体を受け止めきれるはずもない。
泣いて怯えて奉仕どころではない側女たちに、ついに怒りを爆発させた皇帝は、引き取りに来た宦官長のイルハリムを寝台にねじ伏せ、その体を押し開いた。
「ぅ……んん、ッ……」
上がりそうになる悲鳴を長衣の袖に吸わせて、イルハリムは後ろから身を拓く皇帝の牡を受け止めた。
硬く聳え立つ太い幹は、どんなに覚悟をして力を抜いていても、気が遠くなりそうなほど苦しい。思わず体が逃げそうになるのを歯を食いしばって堪え、突き入れた皇帝の体が密着するのを待つ。この瞬間が、いつも永遠のように長く感じられた。
あらかじめ油を塗りこめて拡げておいたが、入り口の肉環は大きさに耐えかねるようにジンジンと痺れ、内側から圧迫される下腹には重苦しい痛みがある。それでも、何の準備もなく突然挑みかかられた二か月前の夜に比べれば、苦痛は天と地ほどの差があった。
息を吐いて受け入れようとするイルハリムの腰を掴み、皇帝は隆々とした怒張を押し込んでくる。四つん這いの姿で祈るように顔を伏せ、重みを増していく下腹に苦しい息を吐いた時、皇帝の声が聞こえた。
「そら、全部入ったぞ」
尻に冷たい絹の感触がして、イルハリムは皇帝の牡が根元まで入ったことを知った。
浅く息を継ぎながら、イルハリムは皇帝を愉しませるために、苦しい下腹に力を入れて中の肉棒をきゅっと締め付ける。奉仕の意図を汲み取って、皇帝の声がいくらか和らいだ。
「あんな小娘にお前と同じほどの忠誠心を期待するのが、土台無理というものだったな」
その『小娘』を自らの手で選んでおいて、悪びれもせずに皇帝は言った。
「せめて後宮の責任者として務めを果たせよ、宦官長」
「御、意……」
搾り出すように返答すると、背後の皇帝がゆるゆると動き始めた。
規則的な揺れに身を任せながら、イルハリムはここに来た日を思い出していた。
イルハリムがこの宮殿に連れてこられたのは、今から十五年前の十二の時だ。
住んでいた海沿いの村に兵士が押し寄せ、父母や兄弟とも離れ離れになり、船で遠く攫われたイルハリムは帝都で奴隷として売られた。
黒い直毛に漆黒の目を持つ東方人は当時の帝都ではまだ珍しく、どこへいっても好奇と蔑みの対象だった。後宮内を清掃する一番下の宦官から始めて、側女たちをまとめる今の地位に就くまでには、様々な辛酸を舐めた。
口を使って奉仕することや、体内に男を受け入れるすべは、その時おぼえたものだ。
「――いい具合だ」
体の奥を突き上げながら、皇帝が喉で笑う。
イルハリムは両手に敷物を握りしめ、袖を噛み締めて声を殺した。膝がガクガクと震えて力が入らず、今にも崩れてしまいそうだ。内股を緩い粘液が伝い落ち、皇帝の寝台を汚している。
「何か言ってみろ」
「……ッ!……ッ、ぅッ!」
ぐりぐりと中を抉られて、イルハリムは声にならない悲鳴を上げた。
収めるときにはあれほど苦しかった皇帝の怒張だが、今は並外れた圧迫感が快感に変わり、イルハリムの肉を震わせる。
「!……ァッ……ウッ、アッ…………ァア――ッ!」
ついに声を殺しきれなくなって、イルハリムは身を震わせて喘いだ。皇帝の長大な怒張が、止めを刺すように大きくスライドした。
全身から汗が吹き出し、力を失って崩れた腰を皇帝が両手で引き上げる。雁の部分で奥を押されて、悲鳴とともに抑えきれない善がり声があがった。それを聞いて、皇帝の動きがますます力強くなる。
「……ア、アアアッ、……ア――――ッ……」
腹の奥から湧き上がる止め処もない喜悦。皇帝に奉仕しているということを忘れ、尻を振って快楽を貪りそうになる。あられもない声をあげ、我を忘れて昇りつめてしまう。
腹に響く声で、皇帝が低く笑った。
「どうだ、宦官長。余に罰されるのはどのような心地だ?」
「い、いいです……ッ、陛下のお慈悲に、感謝を……ァアッ、ァアア――!」
敷布を両手で握りしめて、イルハリムは叫んだ。
体の奥を、逞しい怒張が抉るように突き上げる。
渦を巻く快楽に翻弄されて、何もわからなくなってしまいそうだ。体から力が抜け、喉からはひっきりなしの喘ぎが零れ落ちる。
皇帝がイルハリムを呼びつけるのは、側女の失態を咎めるためではない。
怒りに任せて犯した肉体が思いのほか勝手良く、さりとて宦官を夜伽に呼びつけたのでは外聞が悪いので、わざと未熟な側女を選んで叱責の理由を作っているのだ。
皇帝の逸物は並外れて大きく、慣れた寵妃でさえ連夜に亘る夜伽には耐えられないほどだ。
アイシェは皇帝の寵愛を独占しようとほかの女を追い出したが、だからといって一人で相手を務めきれるものでもない。その上、懐妊すれば出産のために宮殿を離れねばならないので、皇帝の欲求不満は溜まる一方だ。
その捌け口として、皇帝は宦官長のイルハリムを使うことを思いついた。
「アッ、ア――ッ!…………もう、お許し、を……ッ」
深い場所を連続で抉られて、イルハリムは長い黒髪を振り乱し、絶え絶えの声をあげる。
情欲の対象にされるのは、これが初めてではなかった。後宮に入った少年の頃には衛兵たちに目を付けられ、物陰に引き込まれては無理矢理相手をさせられた。東方人は若く見える上に、肌がきめ細かい。従順そうに整った貌も、側女には手を出せない衛兵たちに狙われた理由の一つだ。
精通をみない年齢で去勢されると、肛虐の悦びに溺れやすい。
イルハリムも例に漏れず、衛兵たちに何度も尻を犯されるうちに、女のように達する悦びを知った。自らの手では得られない快楽に飢え、自分から男たちに肉体を差し出したこともある。今の地位に就くことができたのも、その当時の男の一人が高官になって、イルハリムの昇格を推してくれたからだ。
成人してからはそういったことからも遠ざかり、すっかり忘れかけていたのだが、皇帝の叱責を受けるようになって肉体に火が付いてしまった。
十年近くが経過する間に体もすっかり熟れたようで、今の方が味わう法悦は深く激しい。けれど宦官長としての仕事もあり、もうさほど若くもないので、あまり溺れすぎると体力が追い付かない。
ついさっきも準備を整えて部屋で待機しているつもりが、風呂から上がったとたんに床に倒れこんで、そのまま眠ってしまっていた。これ以上激しく乱れると、明日の職務に差し支える。
だが皇帝はその懇願が気に入らなかったようだ。
「このように咥えこんでおいて、何を許せと……!」
「ヒッ……ァアッ!」
言うが早いか、皇帝はイルハリムの襟首を掴んで上体を引き上げ、胡坐をかいた足の上に座らせた。
自らの体の重みで呑み込まされた怒張が腹奥を突く。脈打つ肉棒にいっぱいまで埋め尽くされ、腰の奥から怒涛のような官能の波が押し寄せてきた。
「あああ……あ、ああああ……ッ」
快楽の蜜が零れ出る。無意識のうちに腰が揺れ、中に収まる皇帝をきゅうきゅうと締め付けてしまう。自分が溺れるのではなく、皇帝に奉仕せねばと思うのに、あまりの絶頂に自制が利かない。
それを察した皇帝は、イルハリムの長衣を捲り上げて濡れた下腹に指を這わせた。ぐっしょりと濡れた足の間を指で弄り、体を揺さぶりながらせせら笑う。
「これだけ悦んで余の寝台を湿らせておきながら、許せとはよく言ったものだ」
後ろから抱き留める腕に縋りついて、イルハリムは善がり泣いた。
声も枯れんばかりに喘ぎながら、イルハリムは泣いて逃げ帰る側女たちは愚か者だと胸の内で思った。一度奥まで受け入れてしまえば、これほどの凄まじい悦びを与えてくれる主などどこにもいないというのに。
絶頂を味わいすぎて下腹が蕩けてしまいそうだ。もう何度昇りつめたかわからない。それなのに皇帝の怒張はまだまだ力強く奥を突き、イルハリムの腰はそれを貪るように淫らに動き続ける。
――もう終わりたい……。でも、もっと……もっと味わいたい……。
腕にすがってひっきりなしに声をあげるイルハリムを、皇帝は強く抱き寄せる。
「……五日ぶりだぞ」
皇帝が低く吠えた。
「余を五日も待たせたのだ。朝まで許されると思うな……!」
獣のように獰猛に唸った獅子帝は、欲望の強さを知らしめるように、イルハリムの首筋に歯型を残した。
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