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それから十数分ほど会話していると、話題も尽きてきて終話の雰囲気になってくる。 「もうそろそろ、寝る時間だね」 『ああ…そうだな、今日は楽しかった』 「ううんっ!…僕も、楽しかったから」 『…そっか』 「あ、あのね?山下くん。明日の朝、僕に挨拶してくれないかな?僕から言うのは照れくさくて…」 『挨拶?うん、いいよ』 最後に相手の背中を押してあげる俺は何てお人好しなんだろう、と声を出さずに苦笑した。 「ありがとう…じゃあ、彼に代わるね?」 『ああ、じゃあな姫野』 そこで携帯電話はまた保留になる。次に通話ボタンを押した時には、俺の声はまた低いものに変わっていた。 「お電話代わりました」 『あ…す、すごいなあんた。俺、これから頑張れそうだ』 「喜んでいただけたなら光栄です」 『それで、代金は?』 「お代は貴方がお決めください。貴方の満足感に合わせて、私に相応と思える額をご自由に。それを封筒に入れて、翌日の放課後に裏庭のベンチに置いていただくだけで構いません」 『分かっ、た』 「こうしてご依頼してくださる皆様自身が私の支えですから、どんなに少ない額でも憤りなどは致しませんが…もし翌日何もベンチに置かれていなければ。その時は…ふふっ、貴方の"声"で何をしでかすか分からないのでご了承くださいね?」 『っ!』 「では、失礼いたします」 通話を終了させて携帯を乱雑にベッドへ放る。続けて俺もベッドにダイブした。 「っあ゙ー…疲れた」 質の良いベッドはスプリングが軋むことなど微塵もなく、ただ俺を柔らかく包み込む。さっきまで可愛らしい声で会話していた自分を思い出して、少し鳥肌がたった。 「おえぇ…毎度の事ながら、チワワのリクエストは精神的にくるわ…。かわいい俺とかさむすぎる…」 物真似が上手いな、と小さい頃に何気なく言われて以来、練習していたらどんな声や物音でも声帯模写できるようになった。高校に入学してからもそれは変わりなく、人間観察をするうちに常人より優れた記憶力で全員の声真似を会得した。そうして暇だったからとこの無駄な特技でちょっとテレクラもどきのバイトを始めてみたら、これが大儲け。いつしか『クローン』なんて呼ばれるようになっていたわけだ。 人に聞かれたら恥ずかしすぎて死ねるので、完全防音の自室でしかバイトは出来ない。自ずと勤務時間は限られてくるが、それでも金持ち学園の生徒たちはお代を弾んでくれるのでクローンは中々やめられない商売になっていた。 「後は俺の羞恥心の問題だけどな…ははは」 乾いた笑いを零しながら布団に潜る。明日もかかってくるであろう電話に備えて、精神力を蓄えるために眠りに就いた。

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