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翌日の放課後。人気のない時を狙って裏庭に行くと昨日電話してきた相手がベンチの前をうろうろしていた。物陰に隠れて様子を見ていたら、彼は封筒をベンチに置いてその場を走り去っていく。
「うっわ」
ベンチに近づき封筒の中を覗くと諭吉さんが3枚。たった1回の会話で大枚はたく此処の生徒の金銭感覚は未だに理解できないが、ありがたく受け取って胸ポケットにしまった。
ちなみに、こうして封筒を回収しに来るところを誰かに見つかったことは一度もない。人間観察で性格を把握しておけば、その人の行動パターンも大概予想できるからだ。新聞部とかが潜んでいそうな時にはこちらも身を潜めたり、代理に取りに行かせたりしている。寮までの道を帰りながら今日もスクープを逃したであろう新聞部を思い浮かべて、少し笑みが零れた。
――食堂で夕食を食べ終わり、寮の廊下を歩いていると携帯に着信が入った。私用ではなく仕事用の携帯への着信だと分かり、少し早足で自室に戻る。
部屋の扉を閉めて鍵をかけたことを確認してから、電話に出た。
「はい、ご依頼ありがとうございます」
『…お前がクローンか?』
「っ」
相手の声を聞いて、息を飲んだ。
だって、まさか。
「…生徒会長様が、私に御用ですか」
まさかあの生徒会長――香田朱鷺(こうだ とき)が俺に、『クローン』に電話してくるだなんて。
この人も俺と同じく記憶力が良く生徒の顔と名前を記憶しているから、もし何か失敗して正体がバレたらどうしようかと冷や汗が止まらない。
しかしそんな心の動揺を声色には出さぬよう、気をつけて口を開く。
「…いえ、生徒会長様でもお客様には変わりありません。私に依頼があってお電話してくださったのですよね?」
『…あぁ』
「では、ご要望をお伺い致しましょう。貴方が私に望む生徒の学年、クラス、氏名をお教えください。これから起きる事を私は一切他言致しませんし、貴方のプライバシーは必ず守ります」
『…本当に、他言しないんだな?』
「えぇ、勿論です」
そんなに知られたくない相手なんだろうか、もしかして好きな人とか…?
依頼人の名前を言い淀む会長を不思議に思いながらも待っていた時、しばらくして彼の口から出た名前に俺は目を瞠った。
『2-Bの…卯月宮埜(うづき みやの)を頼む』
「…は?」
仕事用に作っていた声が崩れて素の声になってしまったのも気にならないほどに、気が動転した。
だって、それ、俺の名前じゃん。
え?…え、俺?
ああそうか俺かー…って俺ぇ!?
何でどうしてという言葉が頭の中を駆け巡る。会長は俺の戸惑う気配に気付いていないのか、急に声が変わったことなど特に気に留めていないようだ。
『もう演技が始まっているのか?』
「うぇっ?あ、はい?」
『ふっ…何だその疑問形は』
くすくす笑う会長の声を聞いても未だに信じられない自分がいる。声色から俺に好意的なのは感じられるが、それでもあの会長が俺を指名して話したがっている理由が一つも思い浮かばず、どう接したらいいのか分からなくて途方に暮れた。
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