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嗜虐と恍惚と、屈辱と 8

「あ・・・ごめん・・・」 「いえ・・・」 珀英から視線をそらせつつ、口をつくように謝った緋音を見ながら、珀英は椅子に座り直した。 理由はわからないけど、確信が持てた。 緋音が珀英のことを怖がっていることが、わかった。 目を合わせるのも、触れるのも、躊躇(ちゅうちょ)するほどの何かがあったと思われる。 ただ珀英には心当たりもなく。でもこのままじゃ、触れることはもちろん、キスもセックスも何もさせてくれなくなる。一緒にいられなくなってしまうかもしれない・・・。それは嫌だった。 このままじゃダメだ! 緋音は、自覚している以上に珀英を警戒していることに気付いた。 ちょっと触れられただけで、顎を持ち上げられただけで、あの時の恐怖が蘇(よみがえ)った。 冗談じゃない。これじゃあ珀英に触れないし、ましてやキスもできないし、何もできなくなる。一緒にいられなくなってしまうかもしれない・・・。それは嫌だった。 このままじゃダメだ! そう思いつつも二人は話しをするきっかけをなかなか掴めないまま、夕飯を食べ終わってしまった。 緋音は珀英が片付けをしている間にシャワーを浴び、片付けを終えた珀英は、いつもなら続けてシャワーを浴びるのだが、今日はどうしようか戸惑っていた。 緋音がシャワーを終えて、いつものようにバスローブ姿で、冷蔵庫からビールを取り出す。珀英はそんな緋音の綺麗な細い指を一瞬見つめてから、視線をそらした。 緋音が自分を怖がるのなら、今日は帰ったほうがいいんじゃないかと思っていた矢先に。 「シャワー・・・行かないのか?」 緋音が小さいけれどはっきりと言った。珀英は緋音を振り返った。風呂上がりのビールをグラスに注ぎながら、ちらっと視線を送ってくれた。 「あ・・・じゃあ・・・」 「うん・・・」 まだいつもみたいに目を合わせてはくれないけれど、帰れと言われなかったし、触れてもいいのかもしれない。 珀英は一抹(いちまつ)の希望を持ちながら、緋音に勧められるままシャワーを浴びて戻ってきた。 緋音はリビングのソファに座って、さっきのビールをゆっくりと飲んでいた。少しはだけたバスローブから覗く、緋音の細い首や、白い鎖骨が酷く扇情(せんじょう)的で。 緋音のその妙に色っぽい姿を見て、珀英は思わず緋音に覆(おお)いかぶさるように、キスをした。 ソファに思いっきり寄りかかる体勢になって、珀英は特に抵抗しない緋音に深く口吻ける。舌を差し込んで、搦めて吸い上げる。 緋音はその珀英のキスに応えながら、ゆっくりと珀英の胸を押し返した。舌と口唇が離れる。 唾液の糸が一筋繋がって、切れた。 「・・・キスしていいなんて言ってないけど」 「っっっ・・・その」 「オレに言うことあるだろう?」

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