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第38話

食事を終え、会社に戻る間に中林さんが「ごめんね」と謝ってきたので首を傾げる。 「何が?」 「初対面なのにグイグイ話しちゃった。深い話もしちゃったし……。」 「気にしないで。俺も正直言うと緊張していたし、一緒に働く人がどんな人だろうって気にもなっていたから、中林さんみたいに明るい人でよかった。」 「……堂山君ってモテたでしょ。」 眉間に皺を寄せる彼女に、首を左右に振って否定する。 「俺は嫌な奴だったから、モテたことなんてないよ。」 「嫌な奴?そんなふうに思わないけどな。」 会社に着き、自分達のフロアに直行して椅子に座る。 昼休み終了まで残り十五分の時間は朝に貰った資料を読むことにした。 じっくりそれを読んで、簡単にメモに纏める。 分からないところは後で中林さんに質問しよう。 「──堂山君」 「っ、はい!」 名前を呼ばれ、資料を閉じて立ち上がる。 目の前には凪さんがいて、思わず頬が緩んだ。 「分からないところとか、困ってることはない?」 「はい。今のところありません。」 「よかったよ。」 ぼんやりと凪さんを見上げる。 まずい。甘えたい。 キスしてほしい。 「真樹」 「はい」 手を取られ、専務室に連れて行かれる。 ちらっと見えた中林さんは笑顔で手を振っていた。 部屋に入るとそっと抱きしめられる。 堪らず彼の大きな背中に手を回して、その匂いを胸いっぱいに嗅いだ。 「真樹、そんな顔で見られちゃ我慢できないよ。」 「え……ぁ、んっ!」 顔を上げると唇が重なる。 夢中になって舌を絡めた。歯列をなぞられ上顎を舐められる。鼻から抜けるような声が漏れて、それと同時に腰が抜けた。 「ぁ、う……凪さん……」 「仕事熱心で可愛いね。愛してるよ」 「や、めてください……俺、戻らないといけないのに、恥ずかしい……」 「暫くここにいてもいいよ?恥ずかしさが収まるまでそこに座ってる?」 「ダメです……!中林さんに迷惑かけたくないので!」 彼から離れると、ぐっと体に力を入れて何とか自力で立った。 「戻ります」 「あ、仕事モードに切り替わった。」 「仕事中なので」 「まだ休憩時間だけどね」 「……帰ったら甘やかしてください。」 それだけ言って頭を下げると、凪さんは何故か嬉しそうに大きく頷いた。 「失礼します。」 部屋を出て自分のデスクに戻る。 恥ずかしさを堪えるように俯いて、少しして顔を上げた。 不意に中林さんと目が合う。 彼女は「いいねぇ」と言いニヤニヤ笑っていた。

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