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第39話
「じゃあ、お先に失礼します。お疲れ様」
「お疲れ様です。」
定刻を過ぎて、中林さんは帰って行った。
俺は凪さんの仕事が終わるまで待つことにして、デスクに座り資料を見る。
「ふぅ……」
久しぶりの仕事だったからか、目と首と肩が疲れた。
少し頭痛もする気がする。
資料を閉じ、デスクに顔を伏せると、じんわり涙が滲んだ。
弱くなったなと思う。
前までは完璧だったのに。
デスクがコンコンとノックされ、顔を上げると真樹さんが立っていた。帰る準備を済ましている。
「待たせてごめんね。帰ろうか」
「はい」
立ち上がり、彼と一緒に駐車場まで降りて車に乗る。
助手席でシートベルトを締めると車が発車する。
ぼんやりと彼の横顔を眺めて、綺麗だなぁと思っていると、彼が俺の手をそっと握った。
「疲れた?大丈夫?」
「大丈夫です。」
「お腹空いたよね。何が食べたい?」
考えたけど食べたいものが思いつかない。
特別お腹が空いているわけではなかった。それよりも頭痛が気になって仕方ない。
「……もしかして体調悪い?」
「いえ……大丈夫です。」
「熱は無いね。頭痛とか吐き気は?」
大丈夫って言ったのに、心配性な彼は何度も俺の体調を確認して、薬局に車を停める。
「薬買ってくるから待っててね。眠ってていいからね」
「……はい」
こうなったら下手に「大丈夫」って言うより、彼のやりたいようにしてもらった方がことがいいと、この一ヶ月の間に学んだ。
直ぐに戻ってきた彼は、水と薬を出して飲むようにと言う。
「本当は何か食べた方がいいんだろうけど、とりあえず。」
「ありがとうございます」
薬を飲むと、座席を軽く倒された。どうやら家に着くまで眠るように促されているらしい。
ここまでくるともう、心配性を通り越して過保護だと思う。
「寒くない?」
「はい。丁度いいです。」
「初日から無理させてごめん。すぐ帰るから」
「本当に大丈夫ですよ。それに仕事も楽しかったです。」
そう話しながらも疲れていたのか、ウトウトしてしまって、家に着く頃には「真樹」と呼ばれても眠たくて返事が出来なかった。
「真樹、起きて」
「……ん」
でも異様に眠たくて、凪さんの方に手を伸ばして首に腕を回した。できるならこのまま眠りたい。
「え……熱い。熱出てきた?」
凪さんの手が首に触れる。ひんやりしていて気持ちいい。
「とりあえず部屋に行こうか。ごめんね、ちょっと離してね。」
腕を解かれ、俺のすぐ隣のドアが開く。
シートベルトを外され、腕を取られるとぐっと強い力に引っ張られた。
「う、ぅ……」
「ちょっと我慢してね」
凪さんに抱っこされてる?
そんな気がして慌てて自分で立とうと、手足をバタバタさせた。
「わっ、真樹、どうした?」
「降りる、降ります。大丈夫。歩く」
「わかった!わかったから暴れないで」
ゆっくり地面に下ろされ、彼の手を借りて部屋まで行く。
玄関に入り靴を脱ぐと、もう歩くのが面倒になって床に座り込んだ。
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