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第61話
凪さんはいつも会社に行く時は車だから、帰りに通る道を歩いて行こうとして足を止める。
もしかして、まだ番になっていない今、やっぱり俺と番になりたくないからって、別れ話について考えている……とか有り得るのかな。
「……もし本当にそうだったらどうしよう……」
俺はもう、こんなに凪さんのことが好きなのに。
泣きそうになって唇を噛む。
今は何も考えずに、家で彼を待っておくべきだろうか。
家に帰るかこのまま進むか、考えていると向かいから来た車が急に停止した。驚いてそちらを見ると運転席には凪さんがいて、彼も同じように驚いていた。
「真樹っ!」
「な、凪さぁん……」
どちらの方向からも車が来ていないのを確認して、凪さんの車に駆け寄り助手席のドアを開けて乗り込んだ。
「何でこんな所に……」
「そ、それは、俺のセリフ……っ!」
我慢していた不安が堰を切って溢れ出た。
「起きたら居ないし、連絡も置き手紙も、何も無いからっ!」
「ああ、そうだった。ごめん真樹。不安だったよな。」
「せめて、一言くらい……っ」
涙がポロッと零れて、慌てて手の甲で拭う。
マンションの地下駐車場に着き、車を駐車すると彼は慌てて俺の方を向き何度も謝ってくる。
「急に呼び出されたんだ。本当に急いでる様子だったから、慌ててしまって……。」
「なんとなく、わかってたんでいいです。」
「……泣かないでくれ」
「もう泣いてないです」
泣くと不安が解消されて、代わりに腹が立ってきた。
車を降りてエレベーターホールに行きボタンを押す。
凪さんはもう、勝手にしてくれ。
「真樹、待って」
「待たない」
「本当にごめんなさい。声は掛けるべきだった」
「……起きたら居るはずの凪さんが居ない不安が分かりますか。トイレもお風呂場も、凪さんの部屋にも居なくて、もし仕事で呼び出されたなら電話をしたり迷惑だろうなって思って、でも不安だから家に一人でいるのは嫌で……」
腹が立つ。
あんなにも不安だったんだ。それを彼が理解できるわけがない。
エレベーターが来てそれに乗る。
異様な程静かな箱の中で、凪さんは俺の名前を呼んだ。
「確かに声を掛けずに出たのは申し訳ないと思っている。けど、どうしてそんなに不安になったのかがわからない。だから教えてほしい。俺はすぐに帰るつもりで、実際早く帰ってきたけど、もしかして真樹は俺が帰らないと思った……?」
「……番……」
「番?」
「番になるのが嫌だから、なってない今なら離れられるって思われたんじゃないかって、思って……」
痛いくらいの沈黙が走る。
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