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第125話

「あれ、汗やばいよ。大丈夫?」 「う……ぁ、きみ、は……」 「ああ、まだ驚いてる感じ?僕はほら、中学の時同級生だったでしょ。まあ、すぐ転校することになったけど……。」 オメガに対して偏見を持つようになった一番の出来事。 彼はあの日、俺を襲った子だ。 「そ、それは、わかってるっ」 「え、じゃあ名前のこと?上住(うえずみ) 蒼太(そうた)」 「そうじゃ、なくて……」 「とりあえず落ち着いてよ。別に危害を加えるつもりは無い。僕は元々だけど君もアルファじゃなくなったわけだし、発情期が今ここで起こっても君を襲わない。」 「……ご、ごめん」 「別に」 重たい沈黙が走る。 その間に気持ちを落ち着かせて、彼に向き直った。 「あの……何でここに……」 「職場が近くで、今日はたまたま有給使って休んでた。とはいってもブラック企業だから仕事しなきゃいけなくて、家では捗らないしカフェでしようかなって出てきたら知った顔があったから声掛けた。」 「知った顔って……」 もう何年も会ってないから、俺の顔なんて知らないと言ってもおかしくないのに。現に俺は彼のことを覚えていなかった。 「言ったでしょ。変な奴らが来たって。君の写真を見せられた。最初は誰かわからなかったけど、名前を聞いてピンと来たよ。あ、初恋の子だって。」 「……初恋」 「うん。あの時は上手く制御できなくて君に怖い思いをさせてごめんなさい。あの時は君に勝手に裏切られた気になって恨んでたけど、今は被害届を出さないでいてくれたことも感謝してる。」 「……俺も、あの時、助けるどころか被害者ヅラばかりして、何も言えなくて……ごめんなさい。」 「ううん。さっき言った変な奴らから色々と、聞いてもないことを聞かされたんだけど、あの出来事は君にとってかなりトラウマだったらしいって。それからオメガに対してすごく偏見を持つようになったって聞いた。……君が謝ることは無いよ。」 「ごめんなさい……」 謝ることは無い、と言うくせに厳しい言葉をわざわざ選んで話している気がする。 肩身が狭い思いをしていると、彼はくすくす笑った。 「随分変わったね。性別と一緒に性格も変わったの?」 「……」 「ごめん。いじめ過ぎた」 俯くと、テーブルに名刺が置かれる。 それを見ると、彼の名前とボールペンで書き足された連絡先があった。 「本当に警察を呼ぼうかと思うくらいしつこかった。昔の一件を話さなきゃ帰らないって家の前で大声上げたりされて。ああいう危ない奴らに狙われてるんでしょ?何も出来ないかもしれないけど、少しでも力になれたら。」 「え……え……?」 「オメガって希少だし、やっぱりオメガ特有の気持ちが分かるのってオメガだけだし、何かあればいつでも連絡してくれたら、話くらいは聞ける……多分……。」 綺麗な彼の顔の眉間に皺が寄る。 ……そんな顔をされるくらいなら、話くらいは聞ける、なんて言わなくてもいいのに。

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