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第153話
家に着くと、凪さんに風呂に連れられた。
優しく丁寧に洗われる。
鏡を見ると首は締められた跡があって痛々しい。
お風呂から出て、凪さんの入れてくれたココアをソファーで飲む。
漸く一息つくことができたを
「あ……そういえば、書類持って行けなくてごめんなさい。」
「そんなのはいいよ。……忘れた俺が悪いし、真樹にお願いしたのも申し訳ない。」
落ち込んでいる彼に「大丈夫」と伝える。
まさか平日の真昼間にこんな事が起きるなんて予想してなかった。
「真樹がなかなか来ないから連絡しようと思ったんだ。そのタイミングで橋本君が慌てた様子でやって来て、エレベーターホールで一瞬真樹を見たのにすぐに消えたから、何かあったんじゃないかって来てくれた。エレベーターはまだ一階に降りてきても無かったらしくて、それに乗って移動するのは有り得ないって思ったらしい。」
「エレベーターホールに居たんだ。気付かなかった。」
「すぐ真樹の場所を調べて……、実は前から連絡してた守屋に伝えた。」
それから凪さんから説明を受けた。
守屋さんのことと、どうしてこんなに時間がかかったのか、ということ。
「実害が出ていないと動けないって言われた。今まで集めた三森の悪事を守屋に伝えてたんだ。それを守屋は理解してくれても、どうしても『オメガが悪い』という上からの意見がひっくり返らないらしい。集めた証拠を弁護士に提示する方が早いかもしれないって言われて、相談している最中だった。」
「……オメガが悪い、かぁ。」
「流石に今回の事はそれで終わらすことはできない。実際真樹は暴行され、拉致、それから監禁されてたから。それに……真樹は見たかどうかわからないけど、ストーカーを証拠付ける部屋もあった。」
「見た。怖くて、気持ち悪くて……堪らなかった。」
知らなかった。
アルファである俺を三森が好きでいたことも、そんな俺がオメガになって、番を作っている事に嫌なほど憎んでいたことも。
「……あながち、間違ってないね。オメガが悪い。」
「真樹、それは違う。」
「俺がオメガにならなきゃこんな事は起きなかった。三森を犯罪者にしなくて済んだ。」
自責の念に囚われて、涙が零れそうになり俯く。
俺は凪さんと幸せになることができても、誰かが不幸になってしまう。
そんなこと、考えていなかった。
「変わらず真樹は真樹だ。それをオメガになった事で勝手に変わった、裏切られたと勘違いした三森が悪い。真樹は何一つ間違ったことはしてない。真樹が責任を感じる必要は無い。」
「そうかな。だって現に、三森を傷付けたわけだし。」
「違う。三森が勝手に思い込んで、自分自身を傷付けただけだ。」
俺の背中を撫でて何度も『大丈夫』をくれる彼。
机にマグカップを置いて、凪さんの首に腕を回し抱き着いた。
ポンポン、と優しく規則正しく背中を叩かれる。
そのまま俺は安心しきったようで、気付けば深い眠りに落ちていた。
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