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第154話
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優しく名前を呼ばれ、トントンと肩を叩かれる。
目を開けると凪さんが申し訳なさそうな表情でそこにいた。
「ごめん、守屋が来たんだけど……起きれそう?」
「……うん」
体を起こすと、凪さんがホットタオルをくれた。
どうやらこれで顔を拭いて、ということらしい。
ありがたく顔を拭いている間に、凪さんが俺の寝癖を軽く直していく。
それからリビングに出ると、昨日見た守屋さんがいて、すぐに頭を下げた。
「昨日はありがとうございました。」
「いえ。間に合って良かったです。」
凪さんに背中を押され、テーブルの席に着く。
まだ寝起きのぼんやりした頭では上手く会話が出来なくて、守屋さんと凪さんが話しているのを聞く。
「嘉陽が集めてくれた証拠もあるから、間違いなく事件にできる。上はまだ渋ってやがるが、俺が絶対に、責任を持って最後までやるから、安心してくれ。」
「ありがとう。」
「いや、礼を言われるようなことじゃない。むしろ謝らないといけないんだ。こうなる前に動けなかった事、本当にすまなかった。」
俺に向かい頭を下げてきた守屋さんに、慌てて「頭をあげてください」と伝える。
「大丈夫です。俺はもう、何ともないので。助けてくださいましたし、本当に……大丈夫だから……。」
急に心底ホッとした。
視界が滲み、涙が零れていく。
「真樹……」
「あ、安心したら、泣けてきちゃって……。ごめんなさい……。」
頬を伝うそれを手の甲で雑に拭う。
凪さんは俺の背中を撫でてくれた。
ああ、本当に終わったんだ。
どうすればいいのか、不安で堪らなかった日々から解放されるんだ。
そう思えば思うほど、涙は止まらなかった。
そんな俺を凪さんはずっと隣で見守ってくれていた。
少しして守屋さんが帰っていき、凪さんと二人きりになった。
泣いたせいで瞼が腫れぼったい。
「あ、橋本に電話しなきゃ……」
「俺からしておいた。また改めてお礼を言いに行く。真樹は今は休んで。精神的にもだけど、今だって泣いたから体も疲れてると思うよ。」
「……凪さん」
「ん?」
凪さんの手を取って引き寄せる。
ギュッと抱き着いて、好きな人の香りを胸いっぱいに吸った。
「凪さんにも、沢山心配と迷惑をかけてごめんなさい。それから、俺の知らないところで色々頑張ってくれてありがとう。」
「心配だったけど、迷惑じゃないよ。それに俺のしたいことをしただけだ。早く真樹と安心して生活を送りたかった。」
「うん。」
「落ち着いたら、どこかに出掛けよう。真樹の好きな所に行こう。それから……そうだな。俺の両親に会ってくれる?」
「うん。会わせてほしい。」
顔を上げると触れるだけのキスをされる。
日常が戻ってくる。それが嬉しい。
そんなとき、空気の読めない俺のお腹がギュルルと音を立てた。
「お腹空いたんだね。用意するから待ってて」
凪さんがクスクスと笑いながらキッチンに消える。
恥ずかしい。ただただ恥ずかしい。
もう少しで昼ご飯の時間。
これを食べたら、凪さんとゆっくり過ごしたいな。
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