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第157話
会社に着いてすぐ、凪さんと別れて橋本の部署に顔を出した。
もう出社していた彼は、俺を見ると右手を上げて大きく手を振ってくる。
嬉しくて振り返すと、すぐに傍に来てくれた。
「一昨日大丈夫だった?」
「うん。ありがとう。実は色々あったんだけど、とにかくお礼が言いたくて……。近い内時間無いかな。ご飯行かないか?」
「え、行きたい。行く行く。何食べる?俺予約するよ」
「いや、俺がやるよ。橋本は何食べたい?」
「肉!」
ノリノリな橋本に小さく笑いながら頷く。
「わかった。じゃあお店探しておくね。また都合のいい日教えてほしい」
「今日空いてる。明日も、明後日も。ていうかいつでも。」
「……暇なの?」
「友達居ないからな」
「なんか、ごめん……。」
「いや、別に。」
変な空気が流れて、それを打ち切るように下げていた視線を上げた。
「わかった。じゃあ今日にしよう!」
「やった。楽しみ。仕事頑張れる」
「また連絡するね。」
「待ってる」
そう言って別れ、専務室に向かう。
俺のデスクに座り待っていたらしい凪さんが「どうだった?」と聞いてきたから、今夜ご飯に行く事にしたと伝えると目をぱちぱちとさせた。
「今夜?」
「はい。肉が食べたいらしいので、お店を探します。」
「え……今夜は俺とゆっくりするはずじゃ……」
「あれ、そんなこと言いましたっけ……?」
「……いや、俺が勝手にその気になってただけ。気にしなくていい」
「……怒った?」
「怒ってないよ。それより肉って何?何肉?どうせなら豪華な美味しいところにすればいい。俺が予約を取るし支払っておくから、気にせず行っておいで。」
スマートフォンを取り出した凪さんが、操作をして画面を見せてくる。
「ここはステーキが美味しいよ。」
「……高」
「たまの贅沢くらいいいだろ。橋本君へお礼の気持ちを伝えるなら尚更」
「そう、かなぁ?」
「嫌なら別のところ探すけど」
そう言ってスマートフォンを引っ込めた彼。
でもどうせこの後も同じような値段のそれを見せてくるに違いない。
「ううん。そこでいい。そこにする」
「そう?お酒も美味しいんだ、この店。あ、でも真樹は飲み過ぎ注意。」
「わかってる」
凪さんが予約の為に電話をする。
この時間から電話をするくらいだ。お店の人とは気の知れた仲なんだろう。
電話を終えて、住所をスマートフォンに送ってもらい、橋本に予約をしたことと、待ち合わせ時間を書いたメッセージを送った。
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