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第158話

退勤時間になって、橋本と約束した時間にビルのロビーで待つ。 凪さんはもう少ししてから帰る予定らしい。 帰る頃に連絡をするように言われたので、それだけは忘れないようにしようと思う。 「あ、堂山ぁ。ごめん、待った?」 「ううん。お疲れ様」 スマートフォンを弄っていると、ロビーに来た橋本が俺の名前を呼んで手をヒラヒラと振ってきた。 それに手を振り返す。 「予約、ありがとう。どこの店?」 「実は俺じゃなくて凪さんが……あー、専務がしてくれたんだ。おすすめのお店だって。お酒も美味しいらしい。ここなんだけど、俺も初めてだからいまいち場所わかってなくて。」 「……美味そう……。地図見せてもらっていい?」 「うん」 スマートフォンを渡せば彼はビルを出てスタスタと歩き出す。 「それで、一昨日は何があったん?」 「あ……えっと……」 「ごめん。フライングした。ご飯の時に話した方がいいやつ?それともあんまり聞かない方がいい?」 「ううん。大丈夫。楽しい話じゃないんだけどいいかな。」 「それは別に気にしないけど。……あ、もしかして前のあの男が関係ある?ほら、凄い偏見持ちの。」 間違いなく三森の事を言っているとわかって、コクコク頷く。 橋本は何かを察してくれたらしく「無理に話さなくていいから」と言ってくれた。 「いや、でも一昨日は橋本のお陰で助かったんだ。」 「俺?何もしてないけど」 「専務に伝えてくれたって。俺が消えたから」 「ああ、あれか。吃驚した。目の前にいた筈なのに消えたんだもん。もしかして何か事件に巻き込まれたのかって思って」 「実は攫われて……」 「はっ!?」 足を止めた橋本が、目を見開いて俺を見る。 苦笑を零すと、スマートフォンを一度返されて、そのまま体中を何かを確認するように触られた。 「え、ちょ、橋本っ!」 「怪我は?」 「大丈夫!」 「……よかった」 無事を確認すると、またスマートフォンを手にした彼。 スタスタと歩いていくのを追いかける。 完全にマイペースな人だ。でもそんなところも面白い。 「攫われて、何も無かった?殴られたりとか……」 「うん。拘束されてはいたけど、何かされる前に警察の人と専務が来てくれて……」 「そっか。間に合ってよかった」 予約していたお店に着いた。 そこは高級感の漂う場所で、少し緊張している俺とは違い、彼は案内された個室に入って行く。

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