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第167話
「抑制剤、痛かっただろ。」
「痛かったけど……前みたいに何も知らない訳じゃないし、一度失敗した経験があるから、今回はすんなり行動できたんだと思う。」
「失敗した経験……」
「ほら、真樹を襲っちゃったこと。」
「あ、いや……ごめん。」
「ううん」
気まずい空気が流れる。
蒼太は深く息を吐いて、落ち着いたのか寝かせていた体を起こした。
「治まったかも」
「本当?あ、これ、食べれるようなら食べて。」
「僕は昼ご飯ちゃんと食べたよ。橋本さんと新木さんにあげて。」
「完食はできなかっただろ。二人にも渡すから、ちゃんと食べて。」
「……ねえ、真樹。僕本当に、嫌われてない……?初めて会ったその瞬間に発情期なんか起こして……」
「大丈夫。橋本は分かってくれるよ」
泣きそうになっている蒼太に、在り来りな言葉をかけることしかできないけれど、でもそれが本音。
「あの……橋本さん、僕と会ってくれるかな。」
「うん。多分橋本も話したいと思うよ。」
「……そうだといいな。」
俺が勧めた軽食を食べて、水を飲んだ様子を見ていると、部屋のドアがノックされた。
凪さんが帰ってきたのだろうか。
返事をするとドアが開いて、橋本が入ってきた。
蒼太の体が緊張してカチコチになってしまっている。
「あの……自己紹介がまだだったから、ちょっとだけ話させてもらってもいい……?」
橋本のその言葉に蒼太は大きく頷く。
橋本にはソファーに座ってもらった。
「橋本洋哉 。堂山が言っていたけど同い歳。経理部にいます。知ってると思うけど改めて、俺はアルファで、どうやら俺と上住さんは運命の番っていうやつみたい。いきなりこんな事になって困惑してると思うけど、とりあえず仲良くしない?」
橋本の言葉に驚いているらしい蒼太は、目をパチパチさせている。
「あー……、ダメ?」
「ち、違います!ダメじゃない……」
「じゃあ連絡先教えてほしいな。携帯貸してくれる?」
「は、はい。これ……」
「ありがとう」
スマートフォンを蒼太が橋本に渡す。
ここは二人だけにしてあげる方がいいのだろうか。
「二人だけで話、する?」
「いや、上住さんの体調が良くなった頃に時間作ってゆっくり話したい。……それでもいいですか?」
「も、ちろんです……」
そうして連絡先を交換した橋本は、スマートフォンを返すと、仕事に戻らないといけないらしく、部屋を出て行った。
「あ……」
「蒼太?大丈夫?」
「かっこいい……」
ぼんやりしてる蒼太のその顔は、完全に橋本に惚れた顔だ。
二人がうまくいきますように。蒼太の優しい表情を見てそう祈った。
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