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第168話
凪さんが帰ってきて、蒼太が落ち着いたのを確認すると、すぐに車を出してくれた。
蒼太を家まで送り届け、会社に戻ってきて仕事を再開する。
「堂山君、この書類を明明後日までにまとめてくれる?」
「はい」
中林さんにもらった仕事をこなし、退勤時間になった頃、まだ仕事をしていた中林さんの仕事を預かって。先に帰宅してもらった。
ずっと迷惑をかけていた分、しっかり働かないと。
「──真樹」
集中して仕事をしていたら、いつの間にか目の前にいた凪さん。
名前を呼ばれ顔を上げると、彼は苦笑を零していた。
「そろそろ帰ろうか。もう八時だ」
「え……」
「随分集中してたな。」
「あー……。中林さんにずっと迷惑をかけてたので、彼女の分をやろうと思って……。ごめんなさい、こんな時間だって知らなかった。」
「いや、気にしないで。俺もさっきまで仕事をしていたし。」
帰る支度を済ませ、凪さんと並んでエレベーターに乗る。
「遅くなったから何か食べて帰ろう。何がいい?」
「俺は何でも。凪さんは何が食べたいの?」
「……久しぶりにラーメンが食べたいな」
「わあ、いいな。俺もラーメン食べたい」
「じゃあそうしよう」
駐車場に着いて車に乗り、シートにもたれ掛かる。
小さく息を吐いて、一度目を閉じた。
「真樹」
「ん、何?」
「大丈夫?疲れてない?」
「大丈夫。凪さんは?今日は色々あったから……」
「俺はなんともないよ。それにしても、橋本君と蒼太君が運命の番とは驚いたね。」
「うん。びっくりした」
返事をしながらシートベルトを締めて、それを確認した凪は車を動かした。
「橋本は優しいし、性別に偏見を持ったりもしてないから、蒼太と上手くいってくれたらいいな。」
「蒼太君は橋本君の事を受け入れてるのか?」
「うん。完全に惚れてた。」
「へぇ。なら橋本君次第なんだな。」
「橋本は前に話した時、恋人が欲しいって言ってた。それに一途だから裏切ったりしないって。後は……もし恋人ができてその人がオメガだったら、番になりたいって。」
「そうか」
凪さんが柔らかい表情をしている。
嬉しいんだろうな。俺も仲のいい二人が恋人同士になれば嬉しい。
「ラーメンはこってり派?あっさり派?」
急に投げられた質問。
話が変わりすぎて笑ってしまう。
「強いて言うならこってり派かなぁ」
「じゃあ俺のおすすめのこってりラーメンがある店でいい?」
「もちろん」
近い内に、あの二人から良い話が聞けたらなと思う。
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