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第171話

その日の夜、凪さんがお風呂から上がるのを待っていると、突然蒼太から電話がかかってきた。 どうしたんだろう、もしかして何か発展したのかと電話に出ると、妙に深刻そうな声で「相談がある」と言われ、ドキドキした。 「何……?」 「は、橋本さんに、ご飯に誘われたんだけど……あの、また発情しちゃうかもしれないなって……。そうしたら迷惑掛けてしまうから、どうすればいいのか分からなくて……。」 「抑制剤は?飲んでから会えばなんとかなるんじゃ……」 「運命の番について調べたんだけど、ネットではそれだけじゃ効かない事もあるって書いてあって……。家なら、外で食事するより、発情期になっても迷惑じゃないかなと思ったんだけど……」 「けど?」 「いきなり家に誘うなんて……」 ああ、なるほど、確かに。 俺が蒼太の立場でも絶対に悩んでる。 でも、橋本なら理解(わか)ってくれると思う。 「素直に全部話せば、納得してくれると思うけど……。」 「発情期になっちゃうかもしれないから、家に来ませんかって……?ただ誘ってるだけだと思われたら嫌だ。」 「あー……うーん……」 何かいい案は無いかと考えていると、凪さんが「お風呂上がったよ」と俺の隣に座る。 「あ、ごめん。電話中か。向こう行ってる」 「ううん。ごめんなさい」 凪さんが少し離れたところに座り、俺は蒼太との電話を再開する。 「ごめんね、専務との休みの日なのにこんな電話して……。」 「大丈夫だよ。あと橋本のことも。きっと分かってくれるよ。優しいから、大丈夫。」 「……そう?」 「うん。俺も色々助けてもらった。きっと橋本にとって性別はそんなに関係無くて、純粋に蒼太が気になってるんだと思う。」 「ぅ……わかった。ちょっと、連絡してみる。」 「頑張って!」 残念ながら、蒼太と橋本の間にある関係を俺がどうこうできないので、蒼太には頑張ってもらうしかない。 電話を終えると凪さんが隣に来て、「蒼太君?」と聞いてきたので頷いた。 「橋本にご飯に誘われたって。でも外で発情しちゃったらまた迷惑をかけるから、どうしようって。」 「あー、運命相手だと、余計にその心配をしないといけないんだね。番になってしまえば安定するんだろうけど……。」 「俺には分からないから、頑張ってとしか言えないや。助けてくれたのに申し訳ないな……。」 「仕方ないよ。二人の恋愛に関しては首を突っ込むべきじゃない。」 凪さんが背中をポンポンと軽く叩く。 そっともたれ掛かると、額にキスをされた。

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