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side 怜
「へー、そうなんだ」
その女性は、私が何を答えても、あまり興味なさそうな顔をしていました。
「それにしても…。あなたは、何故、私がここに居ても驚かなかったのですか? 取り乱したりする方が多いのですが?」
私がそう聞くと、女性は右手で頭をクシャクシャとかきながら答えました。
「あー、それね。時々あるんだよ。目を覚ますと知らない…っていうか、覚えてない男がベッドにいる事がさ」
美しくて上品な女性だと思っておりましたが、どうやら大きな勘違いのようです。美しいのですが、言葉遣いも生活態度も、とても上品とは言えない方のようです。
「でさ、俺って、血吸われちゃったんだよね?」
その女性が聞いてきました。
おや? 俺……ですか?
「はい、頂きましたが――」
「じゃさ、俺、吸血鬼になっちゃうわけ?」
やっぱり、俺……と言われましたよね?
「いえ、大丈夫だと思いますよ。全ての方が吸血鬼になるわけではありませんので。安心して下さい」
「へー、そうなんだー。どうしたら吸血鬼になるんだよ?」
「蚊が血を吸うときには、痒みを起こす液体を注入するのですが、それと同じように、吸血鬼になる物質を流し込むといいますか、まぁ、そんな感じです」
「ふーん。良くわかんないけど、色々あんだな」
その女性はそう言うと、もう一度布団の中に潜り込もうとしています。
「あの、ちょっと私からの質問なんですけど」
「ん? 何?」
女性は布団に入るのをやめて、私の顔を見上げました。
「あの…あなたは、女性ではないのですか?」
私がそう質問をすると、目の前の女性がプッと吹き出しました。それから、呆然としている私の事を見ながら、彼女の笑いはしばらく止まりませんでした。
「あの…」
「あー悪い。でも、あんたが変な事聞くからさ」
「変な事…ですか? 私はあなたの事を、とても美しいお嬢さんだと思っていたのですが…。言葉使いが少し乱暴だな、と感じてはいたのですが、さっき『俺』とおっしゃっていたので、もしかしたらと――」
「あ、そーね。この格好のままで寝ちまったし。しっかりメイクもそのままだったからな」
「という事は?」
「そ、女じゃねーよ。俺、男だよ」
そう言ってその方がまた笑いだしました。
「本当に男性…なんですか?」
「そーそー。俺ね、知り合いの店で、雇ってもらっててさ。何ての、オカマバーって言うかそんな感じの店。だから、こんな格好してるわけ。すっげー酔てたから、そのまま寝ちゃってたんだよ。あ、でも、こんな仕事してるけど、男が好きってわけじゃ無いんだぜ」
「男性が好きなわけではないのに、時々男性がベッドにいたりするんですか?」
特に聞く必要もなかったのですが、興味本位で聞いてみました。だって、イヤじゃないですか、同性と関係を持つなんて。私は、甘い関係になるなら、やはり美しくてやわらかな身体の女性が良いですけど――。
あ、『私』と言っておりますが、男ですからね、私は。
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