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side 怜
午後には、さくちゃんが作ってきてくれた合鍵を持って、外に出てみる事にしました。
お店などを探してみようと思い歩き出すと、さくちゃんのマンションから少し行った所に、商店街を見つけました。こういう場所にはあまり来た事がなかったので、少し緊張していたのですが、優しそうなお店の人たちの顔を見ているうちに、早く買い物をしてみたい…と思いはじめました。
商店街の中ほどまで行くと、図書館がありました。隣には小さな花屋さんとケーキ屋さんがならんでいます。図書館の建物は青々とした木々に囲まれていて、とても気持ちが良さそうです。時間のある時に図書館に行って本を読んでみたいと思いました。
商店街の中をあちこち歩き回ってからマンションに帰りました。初めての街を歩くのは、とても楽しい事です。
私とさくちゃんが、もしかしたら危険な状態になってしまう…なんて事、忘れてしまったような時間でした。
その日の夕方、さくちゃんが仕事に行くために起きてきて、シャワーを浴び終わって、居間に現れたとき、私は掃除機の事を思い出し、どうしたら良いのか聞いてみました。
思った通り、さくちゃんには呆れたような顔をされてしまいましたが――。
「何だって、怜、どうしたって?」
「それがですね、さくちゃん、掃除機に何か入ってしまったようで…」
「何かって何だよ?」
「すみません、ちょっと、よそ見してたので…」
そこまで言うと、さくちゃんは支度をしていた手を止めて、溜息をつきました。
「シャワー浴びる前に言ってくれよ…」
さくちゃんが、チッと舌打ちをしてから、長い爪にキレイにマニキュアが塗られた手で、掃除機を開けていました。
全然似合わない光景だな――と思いながらさくちゃんの手元を見つめてしまいました。
作業をしている間、さくちゃんはずっと、何か呪文のようにブツブツ言っていましたが…一体何だったのでしょう?
それからすぐに、さくちゃんは、掃除機のホースをつなぐあたりから、詰まっていたものを取り出し、顔を上げて私を見ると、怒ったように言いました。
「怜? あのな、落ちてるものが、全部ゴミってわけじゃないんだ。何でも吸い込みゃ良いってもんじゃねーんだぞ!」
言い終わらないうちに、さくちゃんは丸まったストッキングをポイッと私の方に投げました。私の足元で、そのトッキングから埃が煙のように舞い上がりました。
「ゴホッ…はい、すみませんでした――」
ですけど――色々な所で、着ていた洋服をポイポイ脱ぎ捨ててしまうさくちゃんも、いけないと思うのですが…。
「まったく、俺より長く生きてんだから、エッチなことばっかしてねーで、色んな事覚えろよな」
さくちゃんはそう言い捨てると、食事と身支度を済ませ、さっさと仕事に出かけてしまいました。
セックスばかりして来たわけじゃ無いんですけど…と思ったのですが、年上の私がそんな事でムキになっても仕方ないですよね…。
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