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11 saku
side さくら
怜が家に居るようになってから、数日間は本当に辛かった。怜があまりにも何も出来なくて、色々教えてやるのが大変だったからだ。
寝る時間をさいてまで、怜に家事を教えなくてはならないし…。
教えてやった後、少し様子を見ててやろうかと思っていると『もう大丈夫ですから、寝ていて下さい』なんて言ってくれるもんで、ベッドに入るんだけど、怜は、俺が寝てる間に何かしらやらかしていて、夕方、俺が目を覚まして、店に行く頃に『すみません…』って声掛けてくる。
俺は、店に行く前はかなりテンションが低い。っていうか、機嫌が悪い。
店に行ったら、好きでもないお客達のご機嫌取りをしなくちゃならないと思うと、お金のためだとは言え、げんなりしてくるからだ。
店に来る客は、圧倒的に男の方が多い。たまにキレイなお姉さんたちも来るけど、そういうお姉さんたちは俺みたいなのなんかよりも、お笑い系の奴を指名する。
俺だって、おっさん達に脚を触られながら酒を飲むよりも、若い女の子と美味しいお酒が飲みたいんだけど…? って思ったりする。
だけど、こんな仕事をしているのには、俺が子供の頃から夢見てる将来の為…。
目標の金額貯められたら、日本を飛び出して、あちこちの国を旅してまわって、んでもって、老後は常夏の島でのんびり生活して…。
なんて、そんな自分勝手な生活に憧れちゃって、家族には内緒で、金になるこの仕事に付いてしまったのだった。
知り合いの店で働き出して、3年半経った。
大学を中退して、この仕事に付いたのが最近バレてしまい、両親には殆ど見放されたような感じなんだけど、家のほうは兄貴がしっかり守ってくれるだろうから、悪いけど俺はこのまま好きにやらせてもらおうって思ってる。
兄貴は俺と違って常識人だし、まだ若いってのに、さっさと、しっかり者の奥さんをもらった事だし。
でもまぁ、兄貴に言わせると、俺が羨ましいらしい。兄貴は昔から枠から外れた事が出来ない人だったから。だけど、それはそれで良い事なんじゃないかと思う。兄貴の奥さんにとっは、兄貴のような堅実な人間は安心できていいと思うんだ。
俺は無理だろうな…平凡な生活を送るなんて。女に束縛されて生きたく無いし…だから、最近は恋愛しないようにしてる。俺の夢なんて、女に言わせると、自分勝手でバカみたいな事らしくて、「もっと地に足のついた生活を考えられないの?」 と攻められてしまうんだ。
で、ひょんなきっかけで飲み屋で知り合った人に紹介されて、この仕事を始めたけど…
男として普通の生活を送っていた俺には、店に入りたての頃はわからない事だらけで苦労した。
化粧の仕方もそうだけど、肌や髪の毛のお手入れ、ムダ毛の処理などなどママに叩きこまれ、仕草だって女性っぽくしなきゃダメだって教育された。
男に媚びうるのなんて、男として生活してきた俺には、上手く出来るわけなくて、かなり厳しく教えられた。
最初のころは何でこんな仕事についちゃったかなー? とも思ったけど、昔から『女だったら美人だよなー』と言われきた俺は、思ったよりも早く客が付くようになり、普通の勤め人よりもかなり多く稼げるようになった。お金が入ってくれば、また頑張るか? なんて思えるようになってきて、この頃は、この生活にも慣れてきていたから、少し変化が欲しい…と思っていた所だった。
だから、怜が現れたことは、少しは刺激になって良いかもしれない。
本当は、将来海外で放浪するため、英語でも習いたい所なんだけど、まぁ、焦らずゆっくりやって行くか…。
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