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side 怜  さて…。今日はお店がお休みのさくちゃんが、料理を教えてくれる日です。  掃除や洗濯はもう、完璧に出きるようになりました。自分で言うのもなんですが、もともと私は器用なのだと思います。  今までは、女性がすべての事をやってくれていたので、自分でやる機会がなかっただけなのです。実際やってみると、なかなか楽しくて、自分には家事が向いているような気さえしてきました。  さっきからキッチンで、さくちゃんが私に色々説明してくれています。 包丁、まな板、フライパン、調味料や缶詰…。色々なものが仕舞ってある場所の説明や、ガスレンジのつけ方や電子レンジの使い方…。  でも、私も家に居る間、時々あちらこちらの扉を開けて見てましたから、物のある場所は大体はわかっています。  さくちゃんの説明を聞きながら、キッチンを見回しているうちに、思い出した事があります。それは、自分が過去に、料理をした経験があったということでした。 そんな事を忘れているなんて、おかしな話なのですが、それは多分、自分が思い出したくない過去と繋がっていたからなのだと思います。  私がただ1人、本当に愛してしまった女性…彼女と過ごした日々の記憶は、ひとかけらも思い出さないように、心の奥に封印してしまっていたから…。 「でさ、怜? 聞いてるのかよ」 「え? あ…もちろん、聞いていますよ」  さくちゃんの声で我に帰えりました。思い出の中に戻ってしまいそうでした。 「お前ってさ、ホントに何にも料理出来ないのかよ? ってか、包丁も持ったこと無いわけ?」 「……いえ、それが実は私、料理をした事があるようなんです」 「あるようなんです…って何だよ? 昔の事で忘れちまったのかよ? そっか、こういうガスレンジとか無い時代だったんだろ? 火吹き竹でフーフーやってる頃とか」  そんな風に言われたことが、ちょっと心外だったので、私はついムキになってしまいました。 「違いますって」 「ふーん。妖しいよなあ、怜がそういう風に言う時ってさ…」 「そんな風におっしゃるなら、見ていてください」 「どんなもんだか…」  さくちゃんが私の横で、ジーッと私のやる事をみています。  冷蔵庫から玉子やバター、ハムなどの食材を取り出して、朝食の用意を始めました。 さくちゃんは、初めのうち、何か言いたそうに横に居ました。いつ私が音を上げるか待ってるようでした。 「なんか、マジで大丈夫そうだから、向こうに居るよ。後はよろしく」  しばらくキッチンに居たさくちゃんが、退屈そうにそう言って、ソファーの所に行ってしまいました。

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