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Side さくら  まったく、怜には驚かされるよ。 何も出来ないのかと思っていたら、急に料理やりだすし…。それも、かなり手際が良い。 そんなに料理が出来るのに、料理できる事を忘れてるってのも、凄い事かも知れない…。    まぁ、俺の何倍も生きてきているから、忘れる事もあるのかも知れないけど…。  しばらくの間、不器用な怜がどんな風に料理するのか心配で見ていたけれど、これなら任せておいて大丈夫だろうと思い、俺はキッチンを出てソファーに寝転んだ。  怜が居るようになってから、色々と気を使ったせいで、いつもより疲れが溜まっていた。 怜に八つ当たりしたりして、少しはストレス発散出来たけれど、やっぱり他人が自分の部屋にいるということは、大変な事なんだと実感した。  店の仲間の殆どが恋人と同棲しているけど、よく他人と一緒に住めるもんだ…と思った。 まぁ、恋愛感情のある相手と暮らしてる奴と、俺の場合とを比べるのは違うとは思うけれど。  そんな風に考えているうちに、俺はいつの間にか眠り込んでしまったようだ。  夢の中の俺は高校生だった。お袋の声が聞こえてくる… 「幸太郎が部活から帰ってきたら、ご飯にするから、もう少し待ってなさい」 「ん、わかった」  何だよ…兄貴が帰ってくるまで、晩飯も食えないのかよ…。ホントは文句言ってやりたかったけど、言っても聞いてもらえないから、適当に返事をしてから、居間でゴロゴロしていた。  そのうち、いい気持ちになって、ウトウトしてしまった。 「幸太郎は、ホントにしっかりしてるのに、朔太郎はどうしてこうなのかしら…」 「まったく、なぁ。挨拶も返事もきちんと出来ないしなぁ」 「そうね…。それに、何だか、いつまでたっても夢みたいな事言ってるしねぇ」  親父とお袋が話してる。親父も帰ってたんだ? 今日は早いじゃないか…いつも仕事仕事で家庭を顧みない会社人間なのに。 「でも、夢を持つのはいい事じゃないか。色々な国を見て歩きたいなんて」 「何言ってるのよ…夢でお腹が一杯になるとでも思ってるの? 幸太郎みたいに、もう少し現実的な事考えればいいのに、世界中を回るなんて、お金掛かるだけで何になるって言うのよ」  あの、お袋、話聞こえてるんだけど?  俺は、いつも兄貴と比べられてばかりのこの窮屈な空間から、出来るだけ早く脱出しようと思ってる。   親父は俺の夢に賛成してくれてるようだけど、それは自分が自由のない生活を選んだから、ただ自分の夢を重ねて見てるだけで、結局は兄貴のように現実的な生活設計をして欲しいって思ってる。  酔ってる時だけ認めてくれてるような事言うんだ。で、普段は母親と同じような事を言う。 『夢を持つのは良い事だが、夢だけでは飯は食えないぞ。もう少し大人になれ…』  大学は東京の大学に行くんだ。大学に行きながらバイトで金を貯めて、アメリカに行く…何でかわからないけど、とにかく最初はアメリカ。大学に入ったら、もっと細かい計画をたてるんだ。それから…。  意識が薄れていく。もうそろそろ兄貴が帰ってくるはずだよな。俺、腹減ってるんだよ…。

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