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side さくら 「さくちゃん、食事ですよ」  さくちゃんなんて、俺もう小学生じゃないぞ…、いつもは「朔太郎! ゴロゴロしてないで起きなさい!」って怒るじゃないか…? 今日のお袋は、久しぶりに優しいなぁ…。 「眠いよ…母さん」 「あの、さくちゃん?」 「眠いんだってば…」  目をこすりながら、重たい身体を起こした。俺を起こしていたのがお袋だと思い込んでいた俺は、穏やかな表情で俺を見ている怜に気が付いて、慌ててしまった。 「…あ…なんだ怜か」 「はい。私です」  怜が俺の顔を見て、少し笑ったような気がした。ったく…何が言いてーんだよ! 「…何だよ? 何か失敗したのかよ?」 「違いますよ。食事の用意が出来たんですよ」  食卓に行ってみてビックリした。家を出てから、朝食らしい朝食を食べた事なんて、何回くらいあっただろうか?  すごく美味そうに見えたから、俺は、珍しく素直に言ってやった。 「美味そうだよ」  それに対して、怜は、俺を見て、ニッコリ微笑んでから、得意げな表情をした。 「美味しいと思いますよ」  まったく、怜のくせに生意気…って思ってちょっとムカついてしまった。たけど、実際食べてみると、本当に美味かった。 目玉焼きの卵の黄身なんて、俺の好みの感じだったし、スープだって缶詰のじゃなかった。盛り付け方も、ホテルの朝食とかみたいな感じだったし。文句のつけ様が無くて、それが不満だったけど…。  黙々とメシを食ってると、怜がジッと俺を見ていた。なんだよ、また観察してんのかよ? まだ、何も変わってないだろ? 髪も白くなってないし、シワも出てないぜ。アソコだって、起きた時元気だったぜ…。  俺は、「体調はどうですか?」って聞かれるのが嫌で、急いで話を始めた。 「うめーじゃん。お前、どうして黙ってたんだよ? 早く言ってくれりゃ、毎日コンビニ弁当食わなくて済んだのにさ」 「えっと、黙ってたっていうよりも、忘れていたといった方が正しいかも知れません」  まぁ、そう答えるとは思ってたけど、本当に忘れてたのか…? 「ったく、忘れるかよ普通…」 「普通じゃないので…」  そっか、吸血鬼だったもんな、女が大好きな。 「あーそうだったよなぁ…。でもさ、そんな、忘れるってことは、何かあったからじゃないの? そうゆーのって…。忘れるってよりも、忘れたい過去って感じ? お前ドジだからありえるよなぁ。台所で火を付けっ放しにして家焼いちゃったとか? 指切って大変だったとか、包丁が足に刺さって貧血起こしたとか…」  怜と話してると、どうしても余計な事まで色々言いたくなってしまう。 「そうじゃないですけど…」  怜はそのまま黙り込み、淋しげな顔をした。やっぱり、何かあったんだな、忘れたい過去が…。

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