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side さくら  なんだか、怜の過去にどんな事があったのか聞いてみたくて、先の言葉を促してしまった。 すると、辛そうにな顔をして俯いていた怜が、顔を上げて話し始めた。怜が初めて本気になってしまった女の話を。  本気が有ったんだ? って思った。そういう感情は無いんじゃないかって思ってた。女と居るのは恋愛感情ではなく、ただの本能だって。やりたい時出来るし、血はもらえるし、でも、情が移ると厄介だから、次々女の所を渡り歩いていたんじゃないかって。  話を聞きながら、怜の薄茶色の瞳を見つめていた。どこか遠くを見ているようなその瞳が、少しづつ涙で潤んでいった。  でも、俺は同情はしないよ…。女好きのエロ吸血鬼…運命を恨むしかないんじゃない? 「自業自得だね」 「そうですね…」  悲しそうに微笑む怜の頬を、涙の雫がいくつも伝っていた。  長い間生きてると、辛い事も多いのかも知れないと思った。少し可哀相に思えてきて、怜の涙を拭ってやった。 怜は自分が泣いてる事にも気が付いていないようで、俺を見て、不思議そうな顔をしていた。 その表情が、犬の怜とダブってしまって、思わず抱きしめて頭を撫ぜてやりたくなった。  一瞬でもそんな事を考えてしまったなんて、俺はアホか? こいつは俺の血を吸いやがった、ドジで女好きの、吸血鬼なんだぞ…。  料理が出来る事がわかったから、家事全般を怜に任せる事にした。 俺は昼間は寝ていて、夕方に起きだし、怜の作った飯を食ってから、店に行く用意をして夜に出かける。 それで、明け方店から帰ってきて、化粧を落とし風呂に入り、腹が空いてれば怜の作った軽い食事を食べ、ベッドに入る。  怜は、俺が帰ってくる少し前に起きて、朝食を作っておいてくれる。そして、俺が熟睡している間に洗濯をして、俺の寝室以外を掃除する。昼間は、買い物ついでに、図書館に行って本を読んでいるらしい。 それから、俺が夕方起きる頃には飯を作っておいてくれる。 しばらくして、夕方の食事だけは一緒に食べるようになった。 食事の時、怜はいつも俺の顔を観察して、何の変化もないとわかると、ホッとしたように食事し始める。  まだ、俺の身体は何も変わっていないと思う。もしかすると平気なのかも知れないという思いと、急に何か起きたらという思いで、時々不安になる。だから、余計に怜に対して冷たくなったりするのだけど…。  俺が店に出かけて行った後、怜は寝室の掃除をしてくれる。その後、風呂に入ってから寝るらしい。  今の所、怜はソファーで寝ているが、そろそろ寒くなってきたから、どうしたものかと思っている。どうせ医者に診てもらって、治療が済んだら、ここに居る必要は無くなるんだから、奴の寝床なんて用意しても無駄だ。金もかかるし…。  でも、怜は俺が文句言っても嫌な顔しないで色々とやってくれている…。一緒に暮らし始めて2週間くらいで、怜は俺の生活のリズムや性格なんかを、よく把握してくれているし…。こんなに完璧な家政婦なんて他にいないだろう。  「犬を飼った…」なんて言って悪かったよ。そうだ、俺のベッド、夜は使わないわけだし、怜に貸してやることにしよう。

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