21 / 169
21
side 怜
最初は私の家事について色々文句を言っていたさくちゃんですが、私の作った料理を食べた日から、私に家事全般をやって欲しいと依頼してきました。そのうえ…
「あのさ、怜。料理もうまいし、掃除も洗濯も大丈夫みたいだから、これからは1週間分の生活費渡すから、買い物とか家の事、全部やってくれるかな?」
って。いつまでかわからない共同生活ですが、さくちゃんの為ならお引き受けしようと思いました。
「いいですよ。私、買い物に行くの、楽しみにしていたんです」
「そっか、良かった。あのさ、金の使い方とか、知らないわけないよな?」
「さくちゃんは私がいくつだと思ってるんですか? 家事は殆どやった事なかったですけど、私だって普通に生活送っているんですから」
「あははは。悪い悪い。で、年いくつなんだよ?」
「えっと……それは内緒です」
翌日から、図書館で本を読んだ後に、商店街で買い物をするようになりました。
八百屋のおばあちゃまとは、すぐに仲良くなって、世間話をしたり、簡単な料理を教えてもらったりしています。
おばあちゃまは、私の事を『王子様』と呼んいます。とても恥かしいのですが、『いらっしゃい、王子様』と言いながら嬉しそうにしているおばあちゃまが、とても可愛らしく思えて、呼び方を変えて下さい、とは言えませんでした。
八百屋のおじいさまから聞いた話では、昔、おばあちゃまが出会った『白馬の王子様』に私が似ているそうなのです。
「その王子様は、本当に白馬に乗って、おばあちゃまの前に現われたのですか?」
気になっていたので、昨日買い物に行った時に、おばあちゃまに聞いてみました。
「まさか、そんなわけないやろ。この辺で馬になんて乗ってたら、皆さんの迷惑になっちまうよ」
そう言って、おばあちゃまは声を上げて笑いました。
「王子様は、やっぱり普通の人と違うなぁ」
おじいさまが笑いながら、おばあちゃまと顔を見合わせ、頷きあっていました。
微笑ましいご夫妻なので、何を言われてもちっとも気になりませんでした。きっとお二人とも温かい心の持ち主だからなのでしょう。
八百屋さんの他にも、お肉屋さん、花屋さん、図書館の受付の方、色々な方と知り合いになりました。
時々、パンを買って、図書館の外にあるベンチで昼食をとりました。パン屋さんのお嬢さんは、私が行くと、いつも頬を染めて笑顔を向けてくれました。素敵な方なので、お近づきになれたらな…なんて、ちょっとだけ心が揺らぎました。
そんな風に、話をする知り合いも増えて、毎日がとても楽しく思えました。
ただ1つの事を考えなければ…。
ともだちにシェアしよう!