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side 怜
今日は、さくちゃんの分の食事を作る必要はないのですが、さくちゃんが夜中に起きた時、お腹が空いているかもしれません。何か簡単に食べられるものを、作って置くことにしましょう。
今では、すっかり慣れたさくちゃんの家のキッチンに立ち、さくちゃんの為に料理をします。その間に、洗濯機も回しておきましょう。
長い間生きていますが、誰かの為にする家事が、こんなに楽しいとは知りませんでした。
別にさくちゃんに対して、恋愛感情がある訳ではないのです。母親が子供に対して抱く感情…無償の愛、とでも言うのでしょうか? そのようなものだと思っています。私がさくちゃんの母親…と言うのも、可笑しな話ですけれど。
それにしても、今日は、朝からずっと、さくちゃんの事を考えているような気がします。今日は、会えないかもしれない…と思うからなのでしょうか?
さくちゃんの事を考えていたら、急にさくちゃんの血の味を思い出しました。
あんなに自然に身体全体に染み込んで、胸が躍るような気持ちになった事は、今までありませんでした。それは、頂いてはいけない同性の血だったからなのかもしれません…。
そんな風に考えていると、さくちゃんの血を頂いてから、まだ2週間しか経っていないのに、血が欲しくなってしまいました。
今まで、私は月1回吸血行動をとる以外は、ごく普通の人間のように生活してきていました。本当に驚くほど正確に、1ヵ月おきに、この欲求が起きていたのに、何故なのでしょう?
…・もしかしたら、さくちゃんの血を頂いたせいなのでしょうか? だとしたら、これが体調の変化なのでしょうか?
あれから数回、水沼先生のお宅に連絡してみましたが、先生は、まだお帰りになっていませんでした。早く、先生に診て頂かないといけないのかもしれません。
でも、そう言えば、さくちゃんには、まだ、何の体調の変化も表れていないようです。いえ…もしかしたら、目に見えない変化があったのでしょうか? 明日にでも、キチンと聞いてみなくてはなりません。
あぁ…とにかく、血が欲しい。どうしたら良いのでしょう? こんな昼間から…。
家事をしていても、思い出されるのは、さくちゃんの血の味…。胸が苦しいほどに、身体が血を欲しがっています。
台所に居たはずの私は、いつの間にか、意識が遠のき、自分でも何をしているのか、わからなくなっていました。
気が付くと、私はさくちゃんの寝室に入っていて、ベッドの傍に立ちつくしていました。
『大変だ!? もしかしたら、さくちゃんの血を?』
不安になった私は、自分の口元を触りながら、さくちゃんの首を見てみました。どうやら、まだ大丈夫なようです。
でも、このままではいけません。本当にさくちゃんの血を頂いてしまいそうで、自分でも怖くなってきてしまいました。
さくちゃんは、今日の夜まで寝ているはずです。…いえ、明日の朝まで寝室から出てこないかもしれません。
今日はもう家に居てはダメです。外に出て、人の少ない所に…それとも、多い所の方がいいのでしょうか? とにかくさくちゃんの近くに居ては危険です。急いで出かけてしまいましょう。
そして、夜になったら、どこかの女性に血を分けて頂きましょう。昼間でも、付き合って頂ける女性が居たら…。とにかく早く…。
どなたかの血を頂けば、この欲求は収まるはずです。
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