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side さくら  家に帰ってから、いつものように怜としばらく話をしながら、サンドイッチを頬張っていた。明日が休みだから、すごく気分が良い。  別に、今の仕事が辛くてしょうがないって訳でもないのだが、毎日のように、好きでも友達でもない奴に話を合わせるのは、面倒臭いし疲れる事だ。  話を聞いてやりながら、誉めてやったり、驚いてやったり…。 『綺麗だね』と言われたら、良い気分になってる振りをして、酒をどんどん勧める…。仕事の愚痴を言う奴には、言いたいだけ言わせておいて『頑張ってね』って言葉を掛けて、膝でも触ってやる。  まぁ、そんな商売なんだってのは十分わかってるんだけど、時々やり切れない気持ちになる事がある。お客を見ていて、何てバカな奴らなんだろう? って思う時も。 でも、そんな奴らにお金を落として行ってもらってるんだから、本当は感謝しなきゃならないんだろうけど…。虚しくないのかな、金で買った優しさや誉め言葉なんて――。  怜の作ってくれたサンドイッチを全部食べ終わると、コーヒーを飲みながら少し休んでいた。怜は今、横で本を読んでいる。また料理の本なんだろうな。  怜との生活が始まった頃は、自分の空間に他人が居るだけで、気分的に疲れるし、家事が殆ど出来ない怜の面倒を見るのが大変だった。仕事でも疲れるし、家に帰っても気が休まらない…なんて思って、怜に当たってばかりだったと思う。  だけど、今では、同じ空間に怜が居ても気にならなくなった。怜に話を聞いてもらうと、気持ちが楽になって、その日あった嫌な事などもすぐに忘れられた。俺は、それがとても不思議に思えた。  前に女と同棲した事があった。 中退してしまったけれど、まだ俺が大学にいた頃、好きな女が居た。綺麗で、頭が良くて、優しくて、みんなの憧れのまとだった。 その女を恋人に出来た時にはメチャクチャ嬉しくて、彼女に「同棲しようよ」って言われた時は、深く考えもせずに、すぐ一緒に暮らし始めた。他の奴に対する優越感もあったんだと思う。 最初は、すごく好きだったから、毎朝起きた時に彼女が俺の横に居る、っていう事がとても嬉かった。 大学では決して見られない表情を、俺1人だけが知っているんだって…。  だけど、しばらくすると、ベタベタ纏わりついて来る彼女が鬱陶しくなった。色々詮索されるのにも、耐えられなくなった。付き合いだした頃には、愛されてるって感じていた、彼女の独占欲が、いつの間にか苦痛になった。  そして、同棲して、2ヶ月もしない間に彼女とは別れてしまった。 「あなたの言葉、信用出来ない…」って言われて。  まぁ、怜との関係は、お互いに恋愛感情がある訳でもなく、ただ、怜に尽くしてもらってる…っていう状態に近いから、苦にならないのかもしれないけど――。 「ごちそうさま。俺、風呂入って寝るわ」 「はい、どうぞごゆっくり」  怜が本から目を上げて、俺に微笑みかけた。  化粧を落とし、身体を洗ってから、湯船に浸かる。一週間の疲れがどっと流れ出ていくようだ。明日の夜は店が休みだし、明後日の夕方までは自分の時間…。あ、そうだ、怜と買い物にも行くんだった。あいつと出掛けるのは初めてかもしれない。  そう考えたら、なんだかウキウキしてきた。何でだろうな、相手は怜なのに――。  風呂を上がり身体を拭いた後、タオルで頭をガシガシ拭きながら、怜の座っているソファーの前を通った。 「じゃな、怜」 「お疲れ様。ゆっくり休んでください」 「あぁ、ありがとう。明日は何時に起きるかわからねーから、食事作んなくていいよ。怜も好きなだけ寝てていいし」 「わかりました。あ、さくちゃん覚えてますか? 明後日は…」 「買い物行くんだろ? わかってるよ」 「それじゃあ、お休みなさい」 「うん」

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