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side さくら  寝室に行くと、すっかり陽が出て明るくなった窓にカーテンをひき、ベッドに寝転がった。  買い物か…車で大型スーパー行って、一度に済ませてしまおう。車を運転するのも久しぶりかもしれないな。誰かを隣に乗せたのっていつぶりだろう?  そう言えば、怜は車の運転出来るのかな? あいつ、ハンドル握ったら別人になったりして?  しばらく、怜の事を色々考えているうちに、意識が薄れていった。  怜の事を考えていたからだろうか? 寝室のドアが開いて、怜が入ってきたような気配を感じた。それから、首のあたりに、少し冷たいあいつの手が触れたような…。 そして、しばらくの間、怜が俺の事を見つめている、そんな気がしていた。 それから、寝室のドアが閉まる音がして、怜の気配が消えていくと、俺は深い眠りについていた。  どの位時間がたっただろう? 眠りが浅くなってきた頃、急にトイレに行きたくなり、ベッドを出た。  時間が気になって時計を見ると、午後11時少し前だった。 『半日以上寝てたんだ…。今週はメチャメチャ疲れていたからな』そう思いながら部屋を出て、怜がいつも寝ているソファーの横を通り抜けた。  薄暗い部屋の中だったけど、ソファーに怜の姿が無いことがわかった。風呂にでも入っているのかと思い、とりあえず用を足してからフロ場を覗いた。だけど、フロ場の電気は消えたままだし、ひんやりとしたフロ場の様子を見ると、怜がまだ、風呂に入っていないだろう、という事がわかった。  もう一度居間にもどり、今度はキッチンも覗いてみたのだが、怜の姿はそこにも無かった。それどころか、いつもは綺麗に整理されているはずのキッチンは、作りかけの食材や皿で、散らかったままだった。  こんなにやりっぱなしで、怜は、いったい何処に行ってしまったのだろう? ソファーの所に戻り、良く見てみると、パジャマが雑に脱ぎ捨てられていて、掛け布団もクシャクシャのままだった。 窓の方を見ると、カーテンも閉められていない。怜は昼間に出かけたきりで、まだ帰ってきていないという事なのだろうか? 怜が、こんなに散らかしたまま、出かけてしまうなんて…。 もしかして…  怜の奴、水沼とかいう医者の所に1人で行ってしまったんじゃないか? 医者が旅行から戻ったのがわかって、慌てて出かけてしまったのか?  何だよ? 一緒に診てもらうって言ってたじゃないか!   酷いよ怜…俺は見殺しなのか?  突然目の前に現れて、俺の血を勝手に吸いやがって…俺の命まで脅かしておいて…何でだよ?!  怜のパジャマを握りしめ、ソファーの前に座り込んだ。オレンジ色の小さな光の下で、俺は泣きたくなってしまった。  …でも、待てよ…よく考えてみたら、俺の命がどうなろうと、あいつにとっては、どうでもいい事のはずだ。大人しくここに居る必要は無かったのかもしれない。 医者の奥さんに「一緒に居た方が良い」って言われただけで、「一緒に居なければならない」わけではないのだ。…それなのに、俺たら、あいつの事コキ使って…。あんまり、あいつが色々やってくれるから、その好意に甘えてしまって…  そうか。あいつ、逃げ出してしまったのか…。 そう考えると、とても不安だった。今まで、怜が居て、あまりにも穏やかな毎日を送っていたから、考えるのを止めていた不安な現実――。  なぁ、怜。俺、死ぬのかな?   寿命より早く…お前に血吸われちまったから…。  俺は、ソファーにもたれ掛かって、怜のパジャマを握りしめていた。

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