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side さくら
その時、玄関の方から鍵を開ける微かな音が聞こえてきた。それから、バタンと音がして、引きずるような足音が、部屋の方に近寄って来た。
「怜?」
足音のする方に顔を向けると、パチンパチンと電気のスイッチの音がして、部屋が明るくなった。
「さくちゃん?…どうしたんですか?」
「怜…」
俺は、怜の所に飛んでいき、怜の胸を両手で叩いた。
「バカヤロー! 俺、置いていかれたかと思った」
自分でも子供じみた行動に出てしまったと頭の片隅で思っていた。
「何言ってるんですか?」
怜が驚いたような顔をして俺を見ていた。
「俺、目が覚めて、トイレに行こうと思ってここ通ったら、お前居ないし、台所は何かやりっぱなしだし、ソファーもぐちゃぐちゃだし――」
「すみません…」
「お前1人で、医者の所に行ったのかと思った…」
「違いますよ」
「でも、俺、不安だった。お前は別に、俺の命まで助ける必要は無いんだ…って思ったら、出て行かれても仕方ないんだ、って。俺、怜の事バカにしてたし…色々とこき使ったし…」
半べそかいている俺を、怜は優しく抱きしめてくれて、子供をあやすように、背中をトントンとたたいてくれた。
「まぁ…確かに、さくちゃんの言う通りですね。さくちゃんを置いて、お医者様に行く事出来ますものね」
「…怜…」
「でも、そんな事は、しませんよ。安心して下さい」
「…ホントか?…」
「はい。ホントですよ」
怜の腕の中は、すごく居心地が良くて、やっぱり怜の方が年上で、包容力があるんだな…って思い知らされた。
ホッとして顔を上げると、怜の胸の辺りに視線が吸い寄せられた。
「あれ? 怜…ここんとこ、血が付いて…」
「あ…そうですか?」
「もしかして、怜、血吸いに行ってたのかよ?」
「え…えぇ」
俺の質問に怜がすましたような顔をして答えた。
「でも、怜、お前言ってなかったっけ? 月に1回血を吸えば大丈夫だって…。俺の血を吸ってから、まだ2週間位しかたってないぜ? なぁ、もしかしてそれって…」
もしかして、怜の身体に変化が現われてしまったのでは? って思った。でも…俺はまだ、何も変わった事が無いのだけど…。
「それが…、まあ、時々ある事なんですよ。それより、さくちゃんは何かありますか? 身体の具合が悪いとか?」
「うん。今の所何も無いみたい。怜の作ってくれたメシ食ってるから、なんか前より元気になったみたいだよ」
「そうですか。良かったです」
怜が俺の顔を見て、ホッとしたような顔をした。
本当に時々あることなんだろうか――?
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