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side 怜  さくちゃんに嘘をつきました。 ホントは今まで、こんなに中途半端な時期に、血が欲しくなった事はありませんでした。 ですが、その事を言ったら、きっとさくちゃんはもっと不安になってしまうでしょう。    先ほどの取り乱した様子からも、想像できます。  私が帰ってくるまでの間、1人でここに座り込んでいたのでしょう…心細かったに違いありません。  さくちゃんが私を見たときの泣きそうな顔が、頭から離れませんでした。さくちゃんには、いつも元気でいて欲しいと思っています。私の方がかなり年上なのですから、しっかりしなくては…。  お願いです、水沼先生、早くお戻りになって下さい…。  心の中でそう思いながら、青い顔をして震えていたさくちゃんを抱きしめていました。しばらくすると、さくちゃんは安心したのか、私の腕の中で、眠たそうに眼を瞬かせています―。 「さくちゃん、もう少し寝ますか?」 「あ…うん。寝る。安心したら、また眠くなった」 「じゃあ、ベッドに運んであげましょうか?」  私がそう聞くと、さくちゃんは顔を赤くして、怒ったように私の手を振りほどきました。 「い、いいよ。1人で歩けるし」 「それでは、おやすみなさい」 「ん…おやすみ」  さくちゃんがそう言って立ち上がりました。 「…怜」  私を見ているさくちゃんの目が、不安げに揺れています。 「はい?」 「明日は、買い物に行くんだからな」 「わかってますよ」  さくちゃんが、私の方を見て頷き、寝室の方に歩いて行きました。 「なぁ、怜?」  寝室のドアを開けてから、もう一度こちらを振り向いて、さくちゃんが小さな声で私を呼びました。 「何です? さくちゃん」  さくちゃんは、さっきの不安そうな表情ではなく、いたずらっ子のような顔をしていました。 「お前は、もう寝るの?」 「はい。シャワー浴びて、寝ます。久しぶりに疲れました」 「もしかして…お前、セックスしてきたの?」 「…はい。血を頂いたので、ご奉仕してきました」  私が正直に答えると、さくちゃんが唇の端をつり上げ、「……怜のエロ吸血鬼!」と言って笑いながら寝室に入って行きました。  まぁ、さくちゃんは少し口が悪いくらいの方が、さくちゃんらしくて良いかもしれません…。  私もさっさと布団に入ってしまいたかったのですが、散らかしたままのキッチンが気になり、簡単に片付けをしてから、お風呂に入りました。 乾ききっていた身体は血を頂くことで、欲情していた体は精を何度も吐き出すことで、十分満たされました。  でも、湯船に浸かると、疲れが一気に出てきたようです――。  女性を抱いたのは、久しぶりのような気がします。この所、血を頂くだけで、慌てて逃げてくる事の方が多かったものですから――。  それにしても、今日の女性はかなり情熱的でした。  近所の女性に血を頂ければありがたいと…思っていたのですが、買い物などに出かけることも多いので、この近くで女性と知り合うのは色々と問題がありそうでした。 ですので、電車に乗って若い人が多く集まる街に行きました。  駅の改札を出た所で、1人の女性と目が合いました。20代後半位の清楚な女性でした。 その女性の近くで、しばらく様子を伺っていましたが、誰かと待ち合わせをしているようでもありませんでした。 「おひとりですか?」  女性に声を掛けて誘ってみると、すぐにお茶に付き合って下さいました。

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