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side さくら  俺はベッドから出ると、台所にむかった。冷蔵庫をのぞいたり、買い置きの缶詰があるかチェックした。後で買い出しに行く予定だったから、食材が少なかったけど、ある物で朝食の用意をはじめた。  誰かの為に食事の用意をするのなんて、何年振りだろう? いや、人の為に料理をするなんて事、あったかよ…と自分にツッコミを入れながら、俺は赤いスープの缶詰の蓋を開けた。  鍋に缶詰の濃縮されたコーンスープのもとと牛乳を入れ、すぐに温められるようにしておいた。それから、キャベツをざく切りにして、コーンビーフと炒めて、塩コショウをしてから溶き玉子を入れて軽く火が通ったら皿に盛った。トースターを温めて、パンを焼く用意をして――。 「あれ、おはようございます、さくちゃん…」  珍しく怜が少し寝ぼけたような声で挨拶をしてきた。台所でガタガタやっていたから、起こしてしまったのかも知れないな。 「おはよ、怜。うるさくて起こしちゃったかな?」  怜と顔をあわせるのが少し恥ずかしかったけれど、俺は何事もなかったかのような顔をした。 「いえ…。あの、すみません、寝過ごしちゃったようです。さくちゃんが朝食の用意して下さったんですか?」  怜が目をパチクリさせながら台所を見回していた。 「そうそう。たまには俺もやってみようかな? って。怜は昨日はセックスし過ぎで疲れてるだろうしなーって」  俺がそう言うと、怜が珍しく、慌てたように「やめて下さいよ、さくちゃん」と首を振った。その様子が新鮮で、俺は調子に乗って怜をからかった。 「ホント、羨ましいよなぁ。今まで、何人位の女とやったんだよ?」 「…さくちゃん…もういいじゃないですかその話は。何人と言われても、数え切れませんし、覚えてないですよ!」  怜がちょっとムキになって答えたので、俺は思わず吹き出してしまった。 「うわー、言ってみてーなぁ、『数え切れないほどやった』なんてセリフ。なぁ、怜、血を吸うたびにセックスしてんの?」 「そんな事無いですって! すぐ逃げてしまう方も居ますし…。さくちゃんとだって…やってないでしょ?」  真っ赤な顔をして抗議している怜が何だか可愛らしいく思えてしまった。 「だって、俺は男だし」  俺がそう返すと、怜のこめかみがピクリと動いた。 「でも、さくちゃんは、男の方ともセックスなさる事あるんですよね?」  怜が睨むように俺を見つめながら、そう言った。…どうやら、逆転されたみたいだ。 「まぁね。仕事がら声を掛けてくるのはやっぱ男だからね…。金もくれるし」 「さくちゃんだって、女性とすればいいじゃないですか。可愛らしい男性の方が好きな女性も多いでしょう?」  怒ったような困ったような顔をしている怜を見ていたら、言い合いしているのが面倒になってしまった――。 「うーん…でも、恋愛とか面倒だし、時間がねーから、たまーにソープ行ってすっきりしてくるけどさ…」 「そうなんですか。でも、さくちゃんが女性を抱いてる姿なんて、想像出来ないですね」  怜の表情が少し柔らかくなってきた。 「…想像すんなよ」  こういう話をしていると、何だかおかしな話になってしまうな。まぁ、それが楽しいと言えば楽しいんだけど――。 「あ、そんな事より、食事の用意の続き、私がやりますよ。さくちゃんは座っていて下さい」  いつもの笑顔で怜がそう言ってくれた。やっぱり怜はこうでなきゃな。 「え…あぁ、じゃ、宜しく」 「ところで、さくちゃんって、料理出来たんですね」  出来上がった料理をテーブルに並べながら怜が言った。 「まぁ、ちょっとくらいね」  お互いに照れたような笑顔になった。

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