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side さくら 「さくちゃん、これ美味しいですね」  怜が少し驚いたような顔をしながらそう言った。 「そう? 良かった。すげー簡単なんだよそれ」  褒められたことと、普通に会話出来ていることが嬉しくて、俺は少しウキウキしたような気分になった。 「コーンビーフとキャベツと…玉子ですね。味付けは塩コショウ…でしょうか?」 「そうそう、そんな感じ。子供の頃、母親がよく作ってくれたんだ」 「お袋の味、ですね?」 「そんなんじゃねーよ。あいつ、手抜き料理ばっかり作ってたからな。でもまぁ、不味くなかったけどな」  母親の愚痴になりそうになってしまい、俺はあいまいな笑顔を向けた。 「美味しいって、幸せですね…」  怜が妙に可愛らしい笑顔を向けながらそう呟いた。この頃、時々怜が子供っぽく見える事があるのだけど、それって、何かの変化なのかな? それとも、怜の素の顔なんだろうか?  食事が終わると、掃除、洗濯を2人で分担して済ませ、買い物に出かける事にした。 俺は、車で大型スーパーに行こうと言ったのだけど、怜が近くの商店街にしましょうと言いはった。 俺、ここに住むようになってから何年経つだろう? 買い物で商店街に行くことなんてなかったと思う。近所にある店で行く所って言えば、弁当屋とかコンビニくらいだ。普通の店なんて、店員と話をするのさえ面倒だし、色々な物をまとめて買うなら、少し遠くても車があるんだから大型スーパーの方が絶対楽だって俺は思うんだけど――。  怜にせかされてパジャマを着替え、2人で買い物に出かけた。友達でも家族でもない怜と並んで歩くのは、なんだか少しくすぐったい気持ちだった。  商店街はマンションから10分かからない位のところにあった。駅の反対側に来たことがほぼないから、こんな場所があったなんて思いもしなかった。 歩いている途中で小規模だけど小綺麗なスーパーを見かけたんだけど、怜はわざわざこっちまで来たんだ? と少し不思議な気持ちだった。 「ねぇ、さくちゃん、野菜はね、ここのお店が良いんですよ」  怜が嬉しそうにそう言いながら、懐かしい雰囲気の喫茶店の隣にある八百屋の前で止まった。店の中から、じいさんとばあさんがニコニコ笑いながら怜の方に近寄って来た。 「こんにちは、王子様」  ちっちゃなばあさんが顔をクシャクシャにしながらそう言って、怜の腕をポンポンと叩いた。 「こんにちは、おばあさま」  おいおい、王子様って――。 「今日は、お姫様も一緒なのかい」  ちいさなばあさんがそう言って俺に向かって微笑んだ。 「え…はあ?」  ちょっと待った! 怜が王子で、俺がお姫様? 今日は化粧もしてないし、俺のほうが背が高いんだぞ…。 「はい、そうなんですよ。私の自慢のお姫様です」  怜がそう言いながら、俺の肩に手を回しをギュッと自分の方に引き寄せた。怜はすぐに俺の肩から手を離したけれど、俺の胸のドキドキはなかなか収まらなかった。  なんで怜にドキドキしているんだよ――。 「ほんとに可愛らしいお姫様だこと。王子様が幸せそうで安心したわ」  ばあさんがそう言って、俺に笑顔を向けた。俺は何て答えたら良いのかわからず、笑顔をかえすだけだった。 「幸せですよ。さくらさんは、とても優しいですから」  怜がそう言った。怜の言葉がむずがゆくて、俺は愛想笑いをするばかりだ。 「お姫様のお名前、さくらさんって言うのね。雰囲気にピッタリだわ」  怜とばあさんは、しばらくの間、楽しそうに話をしていた。 「そうですね、今日は、大根となすと…」  話が一段落すると、怜は思い出したように買い物を始めた。

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