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32 saku
side さくら
いつの間に馴染んでんだよ? それに、さっきの会話は一体何なんだ?
俺は怜の隣で不貞腐れたように立っていた。すると、店のじいさんが気を使って声を掛けて来てしまった。
「奥さん、いい旦那様をお持ちだねぇ」
…おい、じいさん、俺は『奥さん』じゃねーんだけど…って言うか、男なんだよ! と思ってるのに、俺ったら、店に出てる時のような営業スマイルで答えてしまうのだ。
「有り難うございます。あの人、私には、勿体無い位の人なんです」
俺、何言ってんだよ。絶対変だぞ、この会話も。怜の奥さんにされている俺も…。
八百屋で買い物を終えた後、俺は怜に文句を言い始めた。
「おい、王子様とかお姫様とかってなんだよ? おまけに俺、お前の奥さんだと思われてるんだけど?」
不機嫌丸出しの俺に、怜は笑いながら答えた。
「まぁ、良いじゃないですか。訂正するのも面倒でしょ? さくちゃんだって、おじいさんにちゃんと答えていたじゃないですか。『私には勿体無い位の人』だって」
「それはさ、じいさんに恥かかせたら悪いなって思って…」
俺がそう言うと、怜はクスクス笑い出した。
「やっぱり優しいですね、さくちゃんは」
そう言われると、悪い気はしない。
「んーそれにしたって、王子様ってのは無いだろ?」
「そうですねぇ。私もちょっと恥かしいんですけど…」
怜がそう言ってまた笑い出した。
「だろ?」
「そうなんですけどね、それが、おばあさんが若い頃に一目惚れした方に似ているんですって、私が」
「だからって王子様って事ないだろが」
「良くわからないんですけど、おばあさんにとっては、その方が白馬に乗った王子様なんだそうです」
「ふーん。お前がねぇ」
もしかしたら、その王子様ってやつ…マジで怜なんじゃないか? ってことは、怜はあのばあさんと……。まあ、それは俺の心の中にとどめておくか。
それから、何軒か店を回って、買い物をした。昼頃に出かけたのに、帰りは夕方近くなっていた。怜はあちこちの店で顔なじみになっていて…まったく、いつの間にって感じだった。
重い荷物をマンションに持ち帰り、一息ついていた。
俺は、怜が色んな店で店員と仲良く話をしていたのが、ちょっと面白くなかった。俺、ここに何年暮らしているんだろう? なのに、今まで、ろくに近所の人と話をした事さえなかった。まぁ、昼間は殆ど寝てるから、仕方ないんだけど…。
「さくちゃん、お疲れ様でした。楽しかったでしょ?」
一応、店員とか、怜に合わせて話をしていたけれど、俺は、そんなに楽しくなかった…。
でも、怜にはわからなかったんだ? もう少し、俺の気持ちをわかってくれるかと思ってた。
色んな気持ちが溢れてきて、俺は1人落ち込んでしまった。
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