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side 怜
マンションに帰ってから、さくちゃんが一言も口を利いてくれません。何か気に触るような事でもあったのでしょうか?
もしかしたら、あちこちのお店で、お姫様とか、奥さんと言われたのが嫌だったのでしょうか? さくちゃんが上手に話を合わせてくれていたので、ついそのままにしてしまいましたが、さくちゃんが男性だって事を、皆さんに伝えるべきだったのかもしれません。
「さくちゃん、疲れました?」
様子を伺うようにさくちゃんの顔を覗き込みました。さくちゃんは、不機嫌そうな顔のまま、横を向いてしまいました。
「まーね。なっかなか買い物、終わんねーし」
「…すみませんでした…。話が楽しくて、つい…」
「ま、怜は、次のターゲットも探さないといけないんだろうから、仕方ないのかもなー」
さくちゃんの言い方に棘があります。出会った頃のさくちゃんに戻ってしまったような感じです。
「別に、そういう訳でもないですが…」
「ふーん。お前の方が奥さんじゃねーの? おしゃべり好だしさ」
そう言ってさくちゃんはプイと横を向いてしまいました。
仕方ありません…こういう時には、無理に話し掛けるのはやめておきましょう。
今日は、いつものように、楽しい時間は過ごせそうにありません。多分、私の配慮が足りなかったのでしょう…。
昨日の可愛かったさくちゃんを思い出して、私は悲しい気持ちになってしまいました。
買ってきた物を片付け終わると、夕食の用意をします。その間にお風呂にお湯を溜めておきました。
「さくちゃん?」
「んー? なんだよ」
「先にお風呂に入っておきますか?」
「あー。そうする」
さくちゃんは私の方を見ようともしないで、お風呂場の方に行ってしまいました。
何を怒っているのでしょう? 最初の頃より、もっと冷たい感じがします。元々、こういう面もあったのかもしれません。今までは、さくちゃんなりに私に気を使ってくれていたのでしょう…。 私の方が大人なんです、このくらいの事、気にしていてはいけないですね。
夕食の間も、さくちゃんはテレビを見たままで、何も話し掛けてくれませんでした。何だか、息が詰まりそうです。
食後、しばらくソファーの所で寝転がっていたさくちゃんが、お風呂から上がってきた私に、やっと声をかけてくれました。
「怜、俺出かけるから。ベッド使って良いぜ」
「お店に出るんですか? 休みのはずじゃ…」
「店じゃない。私用」
さくちゃんはそう言うと、服を着替えて出かけてしまいました。もしかしたら、友達と飲みに行ったりするのかも知れません。
まぁ…黙り込んだまま2人で居るよりも、良かったのでしょう。
さくちゃんには、ベッドを使っていいと言われたのですが、何だか悪いような気がして、いつも通りソファーで寝る事にしました。
明日になったら、普通に話が出来ると良いのですが…。何だかとても寂しい気持ちでした。
眠ってから、どの位時間が経ったのでしょうか、玄関のドアが開く音が聞こえて目が覚めました。さくちゃんが帰ってきたのでしょう…。声をかけるか迷いましたが、また機嫌が悪くなってしまうのが嫌だったので、そのまま、寝たふりをしていました。
しばらくすると、さくちゃんがソファーの横を通り過ぎる気配がしました。通り過ぎるとき、一瞬立ち止まって、深く溜息をついたのがわかりました。そんなに嫌われてしまったのでしょうか? 胸がチクチクと痛みました。
その後、さくちゃんの足音は、寝室の方に消えていきました。
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