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side 怜
再び寝室のドアが開く音がしました。
「ねぇ、怜、寝てる?」
さくちゃんの遠慮がちな声が聞えてきました。
「いえ、ちょっと前に目が覚めてしまって…」
「ごめんな、起こしちゃって」
先ほどまでの、不機嫌そうな様子は、もう感じられませんでした。良かったと思いました。
「大丈夫ですよ。また眠れますから」
ソファーに起き上がってそう答えると、さくちゃんが何だかもじもじし始めました。
「なぁ、怜…・」
「はい、何ですか?」
さくちゃんの方を向き、キチンと座りなおして返事を待っていたのですが、さくちゃんはしばらく黙ったまま床を見つめていました。
「あのさ、こっちで寝て良いって言ったじゃん」
さくちゃんが顔を上げて、意を決したようにそう言いました。もっと別の話かと思いましたよ…。
「でも、さくちゃん、何か怒っていたようだったので…」
「怒ってないって」
恥かしそうな小さな声が聞えました。
「ちょっと、怜に嫉妬してただけ」
驚きです。さくちゃんがどうして私に?
「…何でですか?」
「だって、怜って、誰とでも上手くやってけそうだから。さっき…楽しそうだったし。羨ましかったんだ」
さくちゃんがそんな風に考えているなんて、ちっとも気が付きませんでした。
「…さくちゃんだって、自然に話していたじゃないですか…」
さくちゃんは、自分がどんなに魅力的なのか、気が付いていないのでしょうか?
「だって、俺は楽しくなかったんだよ…」
そう言い終わると、さくちゃんは上目遣いで私をみながら口を尖らせました。
「そうだったんですね、すみませんでした。嫌な思いさせてしまって」
私がそう謝ると、さくちゃんがやっと笑顔を見せてくれました。
「…俺も、ごめん」
「いいんですよ。ホッとしました、さくちゃんのご機嫌が直って」
照れたような顔で俯いていたさくちゃんが、ゆっくりとソファーの近くまで来ました。
「な、怜、今日は、寒いし…向こうで一緒に寝ようぜ」
その言い方がなんだか可笑しくて、私は思わず笑ってしまいました。
「わかりました。ありがとうございます」
「何笑ってんだよ?」
「いえ、安心したら、何だか可笑しくなってしまって」
私がそう言ったら、さくちゃんは「変な奴」と言って、寝室の方に歩いて行きました。
「ほら、怜」
さくちゃんの後姿を眺めていたら、さくちゃんが振り向いて私を呼びました。
「はいはい」
私は、上掛けを持って立ち上がり、さくちゃんの後ろに付いて寝室の方へ行きました。
「おやすみ、怜」
「おやすみなさい、さくちゃん」
ベッドに入ると、背中合わせに眠ります。
「ところで、さくちゃん」
「ん、何だよ?」
「なんだか、いつもと違う石鹸の良い香りがしますね」
「そーだよ。ソープに行って、すっきりしてきた」
さくちゃんの元気な声が聞えました。
…・さくちゃんって本当に可愛いですね。ソープに行って、心も身体もすっきりしたようです。
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