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side 怜  お店に行く前のさくちゃんは、機嫌が悪いのですが、今日は珍しくニコニコしていました。 一緒に食事をしながら、さくちゃん自身が心に描いている夢の話をしてくれました。 前にも聞いたことがありましたが、この話をしている時のさくちゃんは、他のどの話をしている時よりも、生き生きしています。夢が叶いますようにって…いつも思っています。  さくちゃんが出かけた後、寝室の掃除をすることにしました。 部屋にはいつものようにパジャマが脱ぎ捨ててあります。それから、着替える前に服を選んだのでしょう…ベッドの上には3着のセクシーな服が、出しっぱなしになっていました。  私がいなくなったら、どうするつもりなんでしょう? そう考えた途端、胸がチクリと痛みました。何でしょう? この感じ。どこか具合が悪いのでしょうか? それとも…  考えるのはやめにしましょう。さくちゃんは、私と暮らすようになる前も、一人でちゃんと生活していたのですから。  ベッドの上にあった服をクローゼットにしまい、それからパジャマを拾い上げると、洗面所の洗濯かごに入れました。 さくちゃんのお気に入りのコロンの香りが、ふわっと漂ってきて、なぜか私はドキドキしていました。  寝室に戻り、掃除機をかける前に、もう一度部屋の中をぐるりと見回してみました。すると、サイドテーブルの上に、中身の飛び出した煙草と、ふたの開いたままのジッポが無造作に置いてあるのが目に入りました。  本当に…さくちゃんたら、仕方がない人ですね。  まず、テーブルの上を整理しようと思い、煙草の箱を取り上げました。 あれ? 煙草の箱のフィルムに何か黒い紙が差し込んであります。何でしょう?  何が書いてあるのか気になったので、その紙を取り出してみました。裏返しにしてみると、金色の文字で、お店の名前と住所、電話番号など、それから、『さくら』って名前が可愛らしく書いてありました。  さくちゃんがお店で使っている名刺に違い有りません。  そう言えば、さくちゃんは、夢を叶える為に、今のお仕事をしているって言ってました。 私が一緒に住むようになってから、私の生活費までさくちゃんが出してくれています。ですから、私としては、少々気がかりだったのです。  なんとなくお金の話を言い出しにくくて、そのままにしていましたが…。そう考えながら名刺を眺めていました。  あぁ、そうだ、良い事を思いつきました!  寝室の掃除をすませてから、さくちゃんのクローゼットの中を覗いてみました。きらびやかな衣装がたくさん入っています。でも、これではありません。  ずっと奥のほうを良く見てみると…あぁ、ありました、これです。この服をお借りしましょう。  目当ての洋服を探し当てると、早速着てみることにしました。 鏡の前に立ってみると、多少大きめな感じです。明日、おばあさまに直して頂けるか聞いてみましょう。  ちょっと、ウキウキした気分になりました。もちろん、さくちゃんには、お借りした事は内緒です。きっと今は、この服を使うことが無いと思いますし…多分大丈夫でしょう。

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