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side さくら 「ただいま、怜。あのさ、聞いてくれよ」  店から帰ってきて、すぐに台所に行くと、怜がなんだかいつもと違うような気がした。 「え、あぁ、さくらちゃん。おかえりなさい。手洗いうがい、しましたか?」   そう言ったあと、クスっと笑った。そして妙にソワソワした感じがする――。 「あぁ、忘れた」  俺は慌てて洗面所に戻った。また言われてしまったなぁと思いながら手を洗ってうがいを済ませた。  もう一度台所に行くと、怜は鼻歌を歌いながら食事の準備をしていた。 「…どうしたんだよ、怜? なんかご機嫌じゃない…もしかして、また血吸ってきた?」  俺がそう聞くと、怜は明らかに動揺した。だけど… 「違いますよ。どうもしませんってば」って答えて、また鼻歌を歌いだした。  今日の怜はどこか変だ――。  しばらくすると、俺が訝しがっていることが分かったようで、「ちょっと良いことがあったんです」と、怜は一生懸命言い訳をしていた。  それって、やれる女と会えたって事なんだろうか? そう考えたら、不機嫌になりそうになってしまい俺は自分でも焦ってしまった。 前みたいに「女とやってきたんだろ?」って言って笑えないのは何故なんだ?  しかも、『それなら、俺もソープ行こうかな…』って考始めている自分がいて、そんなところで対抗意識持つのって一体何なんだ? って感じだ。  まぁ、『どうもしません』なら問題ないじゃないか。怜が何してきたって、どこの女とやったって、俺にはなんの関係もないんだから…。  そう言えば、今日は店で、自慢話と説教ばっかするおっさんの相手をさせられて、ちょっとヘコンでたんだ…。  怜の準備してくれたお茶漬けを食べながら、いつものように怜に話し始めた。  まったくいつもいつも、酒の相手して、ご機嫌とって、バカな話に笑ってやって…。 でもって、キショイ奴に限って、しつこく太腿とか撫でてくるし…。時々、胸を触ってくる奴も居るんだ。  そんときのオヤジの反応は、まぁ、笑える時もある。「え…取っちゃったのここ?」だって。本当に女だと思ってる奴も居るんだよ。あの店がどんな店か、わかってんのかよ? ってな。普通こういう商売の奴が取るのって、別のとこだろうが…って思うよ。  胸って言えば、前に、どこかのエロおやじが、 「男でも、乳首弄られると、気持ち良いだろ?」  なんて言いながら、胸元に手を突っ込んで来たことがあった。  急にそんな事されて、すっげームカついた俺は、 「あんたにやられても、気持ち良くねーんだよ!」  って怒鳴りつけて、オヤジを殴ったことがあった。あの時は、店のママにすっげー怒られた。店に入って半年も経ってない頃だったかな…。  そんなくだらない俺の愚痴を、怜は、いつものように穏やかな顔して聞いてくれた。  すごくムカついてる日も、何かで落ち込んでる日も、怜に聞いてもらって「大変ですよね。ご苦労様でした」とか「頑張って下さいね」って言われると元気になれるんだ。  ありがとう、お前は俺の安定剤みたいだ…。  さて、今週は後1日店に出たら次の日は休みだから、もう少し頑張るか。今度の休みには、ゆっくり寝てやるぞ!

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