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side さくら
翌日、店に出る前も怜がちょっと変だった。
もしかしたら、今日も女と会うんだろうか? そう思ったら、無性に腹が立った。俺が仕事してるってのに、何であいつは女を抱きに行くんだ!
店に出る前は、只でさえ気が乗らないってのに、今日は普段以上に気分が悪かった。怜に腹を立ててる、自分にもイライラした。
まったく、俺、この間からすげーお子様な感じだよな…。
ムシャクシャしながら、店に向かった。
でも、自分でもエライと思うのだが、店に出ると、完璧に営業スマイルが出来る。ずいぶん進歩したよな、俺。新人のころだったら不機嫌なままだったかも知れない。
「さくらちゃん! ご指名よ」
ママの声が聞こえた。そばに来たママに「初めての方よ~。宜しくね」って耳打ちされた。
「はーい。頑張りまーす」
営業用の声を出して、お客の待ってるテーブルに行っった。
「どうも! さくらでーす」
軽く挨拶をしながら客のそばまで来た。
「…あ…お前?」
俺は一瞬、店に居るのを忘れて、地声を出してしまった。
だって、俺の目の前に居るのは、いまごろ女とセックスしているんじゃないかと疑っていた怜だったから…。
って、こいつに、店の場所とか教えた事あったか? それにしたって、何で怜が?
「えっと、いらっしゃいませ。ご指名ありがとうございます。さくらです」
そう言って怜の横に座って、普通どおりに接客しようとしていた。それなのに――。
「…さくちゃん、とてもお綺麗ですよ」
怜がそう耳打ちしてきた。怜の息が耳に掛かって、胸がドキドキした。
「何だよ、怜…どうして来たんだよ?」
ウエイターが行ってしまうと、俺は怜の横で、普段の自分に戻ってしまった。
「さくちゃんが、お店でどんな風にしているのか、見てみたくなったもので…」
怜がニコニコ笑いながら俺の事を見つめていた。嬉しそうに笑っている怜が眩しくて、俺は思わず視線を逸らしてしまった。
「俺、店教えたっけか?」
「いえ…。昨日、寝室のテーブルに名刺があったので」
「ったく、突然来るなよ…驚いたじゃないか」
「驚かせたかったんです」
そう言ってウィンクしている甘い顔立ちの怜…。いつもそんな顔で女を騙してるんだろうなぁ。その顔は、全然エロオヤジには見えないもんな。
「あ、なぁ、そう言えば、そのスーツどうしたんだよ? 前のと違うよな?」
怜の着てるスーツを見たら、初めて会った時着ていた、センスのないスーツとは違うことがわかった。
いつの間にそんなの…もしかして、買ったのか? 俺の金で!!
「これですか? ちょっと、さくちゃんのお借りしました」
はぁ? なんだ、そういう事か…って――。
「…テメー、勝手に使ったな!」
「済みません…服を取りに行くのが、面倒だったので」
「取りに…? お前、どっかに家あんのかよ?!」
「はい、まあ」
おいおい、聞いてないぞそんなこと。
「そうだったんだ…って、それよりお前、スーツのサイズ調度良くない? 俺のスーツじゃ、ちょっとデカイだろ…」
「どうです? 似合います? 八百屋のおばあちゃまにちょっと直して頂きました」
「お前ねぇ…」
ソファーから立ち上がって、クルッと一周回って見せてる怜に、大きな溜息が出た。
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