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side さくら
「まぁ、さくらちゃん、楽しそうじゃないのー。その方、お知り合いだった?」
ママがニコニコしながらテーブルにやって来た。
「えっと…そうなのよママ」
説明するのは面倒なのでサラッと流していこう。
「あら、ほんとー。それにしても素敵な人じゃないのよ。さくらちゃんも隅に置けないわねぇ」
「そんなぁ…ママったら」
嫉妬が入ってるような気がして、若干恐ろしいような気もしつつ、笑顔でママの腕を軽く小突いた。
「あら、照れなくても良いのよ、さくらちゃん」
ママが俺の脇腹を小突き返してきた。
「いやだぁ、照れてなんかいないったら…」
「頬が赤いわよー? 正直に言っちゃいなさいよ、さくらちゃんのいい人なんじゃないの?」
「そんな訳ないでしょ!もう、ママったら」
「あら、私には言えないっていうの?」
「だから、違うって言ってるのに…」
ママと2人でしばらく小突き合っていた。
あのーママ、だんだんと力が強くなってるみたいなんですけど…。そう思いながら、腕を擦った。
その時、俺たちの様子を見ていた怜が突然笑いだした。
「あら、どうなさったの?」
「あ、すみません。さくちゃんが…いえ、さくらさん、とっても可愛らしいなと思って」
怜が笑いながらそう言った。
何だよ…馬鹿にしてるのかよ?!
俺はママの陰から怜を睨みつけた。でもその時の怜は、俺の事なんて全然見ていなかった。何だよ! 俺ばかり振り回されてる感じがする。
「そうでしょ? さくらちゃん、人気があるのよ。落ち着いた年齢の方には、1番人気があるかしらね。綺麗だし、可愛らしいし雰囲気だし、話を聞くのもとっても上手なのよ。ねぇ、それよりも、私はどうかしら」
ママが営業用の笑顔を見せながら、怜にウインクした。化粧を落とすと結構立派なオジサンなのにな――。さすがだよ、ママ。
それにしても、その『落ち着いた年齢の奴』って、あの厭らしいオヤジ達だろ? 俺は、そんなの全然嬉しくないんだよな。俺目当ての若い客なんて、たまにしか居ないし、怜みたいにカッコ良い奴なんて、いなかったよな…。
「ママさんも、とってもお美しいと思いますよ」
怜が笑顔を見せながらママを見つめていた。
それを見た俺は、なんだかムシャクシャした気持ちになった。勝てる訳無いよな、この人には…って、何で俺、ママに、対抗意識燃やしてんだ?
「あら、ありがと。嬉しいわ…・。所で、お名前を伺っても良いかしら?」
「あ…はい、雨宮遙(あまみやはるか)といいます」
「遙さんね…素敵なお名前。雰囲気にピッタリだわ」
ママと怜は、しばらく何とかっていう作家の話で盛り上がっていた。2人とも俺の存在なんて忘れてるかのように、時々、お互いの耳元に唇を寄せながら話をしていた。
何だよ! 俺の職場に来て、獲物を物色するなよ…。それに、『あまみやはるか』って何なんだ? 本名なのかよ…女みたいな名前だな――。
俺は営業用の笑顔を作ったまま、2人の様子を眺めていたけど、本当はイライラして仕方がなかった。俺を指名しておいて、何だよ! 怜の奴…。
「ママ! 1番テーブルの方がお待ちですよー」
俺が不貞腐れかけた頃、ママに声が掛かって、他のテーブルに客を待たせていた事を思い出してくれた。
「あら…残念。もっと遙さんとお話していたかったのに。また、いらして下さる?」
「ええ。もちろん」
怜が俺には見せないような、甘い笑顔を見せていた。
まぁ…俺に甘い笑顔なんかむける必要は、ないんだけど…。
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