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side さくら
話が終わると、酔っていた俺は怜の肩に頭を乗せて目を瞑った。
怜が俺の左手を握り締めてくれた。そうしていると、とても安心した。心が求めていた穏やかで温かい居場所を見つけたような気がした。
「さくらちゃん? 眠っていますか?」
怜が小さな声で話しかけたけど、面倒だったので何も返事をしなかった。
眠ってしまったと思ったのだろう、繋いでいた怜の手の力が抜け、俺の手を離そうとした。
俺は、無性に寂しくなり、反対の手で離れていこうとしている手を止めた。
「さくちゃん?」
俺は恥かしくて、何も言えなかった。そのまま怜の手を両手で包み込んだ。
「眠ってる時のさくちゃんて、本当に甘えん坊さんですね…」
怜の呟きが聞えた。
何だよ? 俺、そんなに甘えてるのか? 怜に甘えた事なんて、まぁ、少しはあるか…。
それとも、もしかして、ベッドで一緒に寝てる時、気が付かないうちに、抱きついたりしてんのかな……。
いや、だとしても、抱き枕的な意味で抱きついているんだからな!
タクシーが止まって、運転手の声が聞こえた。目を覚ますと、俺と怜は寄り添うように眠っていたようで、何だか急に恥かしくなった。
俺は慌てて手を離し、眠ってしまっていた怜を起こした。
「怜、着いたよ」
すると、怜が驚いたように起きた。
「え…あぁ、すみません。私も寝てしまいましたね」
運転手に金額を言われたので、俺がタクシー代を払おうとしていると、怜が俺の手を抑えた。
「さくらちゃん、私が払いますから」
怜がクールな笑顔を俺に向けていた。お店で見た時の感じとも、いつものちょっと抜けた感じとも違っていたので、俺はとても戸惑った。
「え…でも」
店でかなり使わせちまったから、せめてタクシー代くらいと思ったのだけど――。
「良いんです」
「ん、じゃあ…ありがと」
その後、何となく気まずくて、お互い黙ったまま部屋まで行った。エレベータで2人きりになった時、自分でも驚くほど緊張しているのがわかった。
部屋に帰り、俺が化粧を落としたりしている間に、怜が風呂に入っていた。
酔ってるからって、怜に心配されたけど、俺も怜の後に風呂に入り、奇妙な気分も洗い流す事にした。
風呂を上がると、怜は既にベッドで眠っていた。寂しいような、ホッとしたような、訳のわからない気分になった。風呂に入って、すっきりしたはずなのに…。
とにかく、今日は変に緊張してつかれた。もう寝よう…。
怜の横にすべり込んで、怜の体に寄り添った。とても気持ちが落ち着いて、幸せだった。
今日の俺、少し変だな。悪酔いしたせいかもしれないな。
今さっき感じた、奇妙な気持ちは、怜の体に寄り添ったとたんに消え去った。
色々考えるのは、酔ってない時にしよう…。
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