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side さくら 「リイチって呼んでくれる?」初めて店であった時に言われた。中学生の頃、好きだった女の子が、そう呼んでくれていたんだとか。  最初に店に来た頃は、まだ父親の会社でごく普通の社員として働きながら、会社の事を勉強していたらしい。 毎日覚えることが多くて大変だ…と愚痴を言いながらだったけれど、今ほど嫌味な人に思えなかったので、頑張っている姿を応援したくなったりもした。  その頃は、周りから叩かれたり、注意してもらっていた立場だったからなのかも知れない。  だけど、一年もしないうちに、雰囲気も態度もガラッと変わってしまったのだ。 利一の事を昔から知ってる訳じゃないから、元々の性格に戻ったってことなのかも知れないけれど。 「はい、水割り」  それからまた、利一のくだらない自慢話が始まった。その間、一度トイレに立った位で、それ以外は、ずっと利一の横に座りっぱなしだった。 退屈だと思いながら、利一の話を聞いているうちに、俺は飲みすぎてしまったようだ。  どちらかと言えば、酒に強い方だと思っていたのに、かなり酔ってしまったような気がする。しかも悪酔いしてるようだ…。  先週といい、今回といい、休みの前は気が緩むのか、悪酔いするな…。週末で疲れているせいかな? そんな事をボンヤリ考えながら、利一にもたれ掛かって、適当に相槌を打っていた。  しばらくすると、利一は他の人と話しながら、俺の体に腕を回して、背中から尻の辺りをやわやわと撫でまわし始めた。  気持ち悪い手の動きに気付いて、俺は体を起こそうと思った。するとその時、利一が俺の耳元に顔を寄せて囁いた。 「な、久しぶりに、さくらちゃんのマンション行ってもいいだろ?」  そう…。利一とは何度か寝たことがある。もちろん金目当てだ。男とのセックスを知らなかったこいつに、男同士のセックスを教えてやった。  利一とは何度か寝た事があるけれど、決して心地よいセックスではなかった。 多分、こいつのセックスは元々、相手に快楽を与えようという行為ではないように思う。自分が気持ち良ければそれでいい、自己中のこいつの性格を表していると思う。  寝惚けた頭で、そんな事を考えていたから、何も答えられないでいた。  返事がないということを了解だと受け取った利一が、俺に厭らしい笑顔を向けていた。 「お金なら沢山払ってやるからさ。お前、お金大好きだもんな」  その言い方に腹が立った。だけど、こいつは一応お客様で…そう考え怒りを抑えた。何だか、すごくダルイ…身体が思うように動かない感じだ――俺は利一にもたれ掛かったままボンヤリしていた。俺、そんなに飲んだのかな…? 「もうすぐ出られるだろ? それまで、ずっとここに居ろよ。他のテーブルには行かせないから」  利一の肩は、ちっとも心地良く感じられなかった。誰かと比べてるのかな? でも、すぐに答えを出せなかった。眠くて眠くて…・。あの心地良かった肩は、誰の肩だっただろう? それさえも、思い出せなくなってしまった…。

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