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side 怜
私がさくちゃんのお店に行ってから、ちょうど一週間経ちました。
先週の今頃は、さくちゃんと一緒に楽しくお酒を飲んでいましたっけ。さくちゃん、本当にお綺麗でした。家に居る時の男っぽい雰囲気とは全然違うので、そばにいてとてもドキドキしていました。
もうお店には来るなと言われてしまいましたが、純粋にさくらちゃんのお客様としてお店に行ければ…と思っています。
ところで……
最近ちょっと気がかりな事があります。さくちゃんが時々考え事をしているようなのです。とても気になるのですが、私が質問しても、「何でもないよ」って答えるだけなのです。
つい先日も、そうでした。お店から帰ってきて、お茶漬けを食べているさくちゃんの側で、私は、料理の本を読んでいました。ふと顔を上げてみると、さくちゃんの箸が止まっている事に気が付きました。
「お腹いっぱいですか?」
「え?…ううん」
「何かありました? お店で…」
俯いてしまったさくちゃんの表情が少し辛そうだったので、そう訊ねてみました。いつもだったら、お店であった楽しかった事や、嫌だった事などをこと細かく話して、スッキリしたような顔をするのに、その日のさくちゃんは、あまり話もしませんでした。
「別に…何もないよ。いつもと同じ」
そう言って、私と目が合うと、すぐにお茶碗に視線を戻し、再び箸を動かし始めました。
何か悩み事でもあるのかもしれないと思いました。でも、私には話せない事なのでしょう。私は役不足なようで、少し寂しい気持ちになりました。
でも、明日はさくちゃんがお休みの日です。明後日には又、買い物に出掛けられます。私の1番楽しみな時間です。早く明後日になって欲しい…。お店がお休みの日でなら、さくちゃんも元気になるかもしれません。
そうだ、八百屋のおばあちゃまに、この間頂いた、煮物の作り方を聞いてみましょう。さくちゃんがとっても美味しいって言って、喜んでいましたから。
さくちゃんの為の食事の下準備をしながら、休みの日の予定を色々考えていて、いつもよりもベッドに入る時間が遅くなってしまいました。
明日はお休みだから、さくちゃんも帰ってくるのが遅いかも知れません――。取りあえず、さくちゃんが帰るまで眠ることにしましょう。
眠ってから、どの位の時間が経ったでしょう? 玄関のドアが開く音が聞こえてきました。さくちゃんが帰って来たのですね。起きて、食事の用意をしなくては――。
でも、何か変です…さくちゃんとは違う声が聞えます。
私は慌ててベッドから抜け出しました。でも、居間に出て行くわけにも行かず、寝室の横の、収納部屋に移動しました。ここなら、いざという時、もう一つのドアから居間に抜け出せます。
さくちゃんたら、何も連絡しないで、男の方を連れ帰ったのですね? そう言えば、お金をもらえるからって、男性と関係を持つ事があると言っていました。
でも、私が来てからは、一度も無かったのに…。
男性がボソボソとさくちゃんに何か話し掛けています。もしかしたら、さくちゃんの恋人なのかも知れません…。女性が好きだと言っていましたが、さくちゃんは男性とも関係を持てる方です。男性が恋人になる事もあり得るのでしょう。
最近さくちゃんが悩んでいるような感じだったのは、私にその相手のことを話しておかなくては、と思っていたのかも知れません。
そう考えた途端、胸がズキンと痛みました。
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