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side 怜
しばらくの間、音と微かに聞こえる声を頼りに、さくちゃん達が居間から移動する様子をうかがっていました。さくちゃんと一緒の男性に見つかったら、さくちゃんはきっと困ることになってしまうでしょう。私は細心の注意を払って音を立てないようにしました。
2人が何かを話していましたが、ボソボソ話すその声は、私の所までは届きませんでした。
そして、さくちゃんの慌てたような声が聞えてきた後、寝室のドアが開く音が聞こえました。
「ちょっと! リイチ…」
「何だよ…キレイじゃん。何が掃除してねーだよ」
「…え…」
「さくら…やろうぜ。俺、もう待てない」
男性のさくちゃんを急かすような声がしました。
もう少し甘い会話が出来ないのでしょうか…? 雰囲気も大切なはずなのに…。
「や…リイチ」
ドサッという音が聞こえて来ました。さくちゃんが微かに抵抗している声が聞えてきます。
「ん…リイチ、ダメだったら…」
あの綺麗なさくちゃんが男の人に抱かれている…。
さくちゃんは、少し乱暴な男性が好きなのでしょうか…? 苦しそうに抵抗していた声が、少しずつ鼻にかかった甘い声に変わっていきました。
なぜか胸がチクッと痛みました。
私は音を立てないように、居間に通じるドアを開け、収納部屋を出ました。
寝室からは、ベッドの軋む音と、知らない男の息遣いと、さくちゃんの喘ぎ声が断続的に聞えてきます。
私はしばらくの間、どうしようか迷っていました。部屋を出て行った方が良いとはきし思うのですが、さくちゃんがもしかしたら嫌がっているのでは? という思いが抜けきらなかったのです。
ですが、どうやら私の心配は無駄のようでした。
さくらちゃんの甘い喘ぎ声は、抵抗している時のものではないようです。
このままこの部屋に居て、これ以上他人が抱き合っている声を聞くなんて悪趣味なこと、とても堪えられそうもありません。
そう思った途端、眠っていた本能が急に目覚め、喉が渇いたように血が欲しくなりました。
沙江子さんの血を頂いてから、どの位経ったでしょう? そうです、そろそろ血を頂かなくてはならない時期かも知れません…。
さくちゃんの喘ぎ声を聞いているうちに、血だけではなく、体の欲求も満たさなくてはと思い始めていました。
急いで沙江子さんに連絡をしてみましょう。まだ、早い時間ですが、彼女なら私の欲望を受け入れて下さるかも知れません。
私はお風呂場の前に置いておいたさくちゃんの服を借り、自分のお財布を持って急いで出かけようとしました。寝室からは、さくちゃんの声が絶え間なく聞えてきます。
玄関に立って、靴を履いているとき、さくちゃんが私の名前を呼んだような気がしました。
そんなはずありません…。さくちゃんが、恋人との行為の最中に私の名前を呼ぶなんて…絶対に有り得ません。
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