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side 怜 「大丈夫ですか?」  私はベッドに駆け寄り、さくちゃんの口に巻かれたタオルと、手を縛っていたネクタイをほどきました。さくちゃんの手首から血が滲んでいました。  ネクタイは男性の持ち物だったのでしょうか? 高級そうなネクタイなのに、こんなことに使うなんて――。 「大丈夫じゃねーよ…見てわからないのかよ…」  さくちゃんがティッシュを取って顔を拭きながら、怒ったように言いました。 「すみません…とにかく、シャワーを浴びましょう」  全身精液でベタベタになっているさくちゃんの体を綺麗にしてあげなくては…。    辛そうな顔をしているさくちゃんを見ているうちに、涙が溢れそうになりました。 泣きはらしたような目、身体中にある赤い痣、胸が苦しくなってしまいそうです。  あの時、様々な誘惑に屈せず、さくちゃんの様子を見てみるべきだったのです…。 「…わかったよ。シャワー浴びるから、肩かして…」  さくちゃんがベッドのはしに腰かけ、隣に並んだ私の肩に腕をまわしました。私はさくちゃんを支え、立ち上がらせてあげました。 「うわ…気持ちわりい…」  お風呂場に向かって歩き出すと、さくちゃんがそう呟きました。 「吐き気がするんですか?」  具合が悪くなったのだと思い、聞いてみました。どんな事をされたのでしょう…相手は乱暴な行為が好きな人だったのでしょうか――。 私にはわかりません、苦しんでいる姿を見て楽しいという行為が。 「違う。ケツから出てきた…」  何を意味しているのかわかり、お風呂場へ急ぎました。  「急いで流しましょう…」  お風呂場の椅子にさくちゃんを座らせてあげてから、湯舟にお湯をため始めました。 シャワーを出してまずは体中についている精液を流しました。 「ご自分で洗いますか?」  ボディタオルに泡の石鹸をつけてさくちゃんの前に差し出しました。 「洗ってくれる?」  小さな声でさくちゃんが言いました。 私はさくちゃんの体も髪も、すべてキレイに洗いました。  手首についた傷がしみるようで、時々さくちゃんが顔をしかめていました。  シャワーで石鹸を流した後、さくちゃんが困ったような顔をしながら、私に言いました。 「怜、ちょっとシャワー貸して…」  さくちゃんが、何をしようとしているのかわかり、私は直ぐに後ろを向きました。 シャワーの音が変わると同時に、独特の匂いが浴室に立ち込め、私は酷く混乱した気持ちになりました。

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