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side 怜 「怜、湯船に入りたい」  体を洗っている間に貯めて置いたお湯が、調度いい位の量になっていました。 「はい…私に掴まって…」  さくちゃんが湯船に浸かっている間、私は急いで濡れた服を脱いで、体を洗いました。 「なぁ、怜? 何処に行ってた?」  しばらく黙っていたさくちゃんが急に声をかけてきました。 「えっと…さくちゃんのお邪魔をしてはいけないと思いまして…」  私はなるべく普段通りの会話をしようと心がけました。 「…俺、本当はヤリタく無かったんだよ…でも、すごい酔ってて。あいつ、俺に薬まで飲ませて、俺が寝てる間に連れ帰られてさ――」  さくちゃんの昨晩の相手が、恋人では無かった事を確信して、ホッとしている自分に驚きました。さくちゃんが傷ついているって言うのに…。 「悪いお客様に掴まってしまったんですね。ひどい目にあいましたね…」  何て慰めたらいいのか迷っていると、さくちゃんが湯舟のお湯をパシャンと私にかけました。 「…怜が居たら、追い帰せたのに!」  さくちゃんが私に向かって、ふくれっ面しています。さっきまでの泣きそうな顔ではなく、いつものさくちゃんの表情に戻っていたので、少しだけ安心しました。 「そんな事言われても、さくちゃんが嫌がってるのかどうかなんて、私にはわかりませんでしたから」 「まぁ…そうだけどさ」 「それに、さくちゃん…とっても色っぽい声出してましたし」 「お前…聞いてたのかよ?」 「はぁ、まぁ…。でも、居た堪れなくなりました。他人の性交渉の声を聞くのは、あまり楽しいものではありませんね。それにちょうど、血が欲しくなってしまいましたし…」 「声聞いてるだけじゃ堪んないよな。やりたくなったんだろ?」 「え…まぁ」 「怜、首んとこ、キスマークある」 「…さくちゃんなんて、身体中にありますよ」 「煩い! 怜のエロ親父!」  そう言ってさくちゃんは、一瞬泣きそうな顔をしました。でも、すぐにいつものさくちゃんの顔に戻ったので、必要以上の事を聞くのはやめようと思いました。  本当は、さくちゃんにこんな酷い事をした人が許せませんでしたが…。 「さくちゃんに言われたくありませんよ」  私がそう言うと、さくちゃんがクスクス笑いだしました。本当はどういう気持ちでいるのか、わかりませんでしたが、さくちゃんが今週に入ってから初めて笑ってくれたので、私は嬉しくなってしまいました。  体を洗い終わった私は、先にお風呂を上がりました。それから部屋に戻って、さくちゃんの着替えを持って浴室の前に戻りました。  ちょうど、さくちゃんがタオルで身体を拭こうとしている所でした。傷があちこち痛むようで、さくちゃんは時々身体をすくめていました。  思うように拭けないようだったので、手伝おうと思い、さくちゃんに向って手を伸ばしました。 「あっ」  私の手が触れた途端、慌てたように、さくちゃんが私の手を払いのけました。 「…すみません」  さくちゃんの拒絶するような態度は、正直なところショックでしたが、男に酷い事をされたせいで、不意に触られる事に恐怖を感じてしまったのかもしれません。 「ゴメン…」 「いえ、気にしないで下さい」  私はさくちゃんの為に何が出来るのでしょうか――?

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