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side 怜
着がえ終わったさくちゃんが、しばらく何かを考えるように俯いていました。
「なぁ。怜…悪いけど、肩貸して」
「いいですよ。でも、大丈夫ですか?」
「…うん。ゴメンな」
私はさくちゃんをソファーの所まで連れて行きました。
その後、救急箱を持って来て、さくちゃんの手首の傷を手当てしようと思いました。
ですが、薬を付けようと、さくちゃんの手を取った途端、私は急に気が遠くなってしまいました。
昨晩寝ていなかったので、眠気に襲われたのかもしれません。慌てて頭を振って気を取り直し、さくちゃんの傷に薬を付けました。
「ありがとう…怜」
さくちゃんの弱々しい声を聞くのはとてもつらい事でした。
「どういたしまして。あの、私、ちょっと寝室を片付けて来ます」
潤んだような目をしているさくちゃんを直視する事ができず、私は慌てて目を逸らしました。
そして、さくちゃんに不審に思われないように、平静を装って立ち上がりました。
寝室に行入ると、まず、窓を全開にしました。それから、精液と血で汚れたシーツを外し、新しいシーツを敷きます。
汚れたシーツを見ているうちに、とても腹が立ってきました。私が部屋を出て行かなければ、さくちゃんがこんな目にあわなかったかもしれないのに…。ベッドの上で苦しそうにしていたさくちゃんを思い出して、後悔の念にかられました。
ですが、起こってしまった事を後悔していても仕方ありません…。
とにかく今はこの部屋を元通りにしなくては。このシーツは処分することにしましょう。もう使う気にはなれないですから――。
それから、サイドテーブルの上とその周りに落ちているお札を拾い集めました。
こんなものの為に、さくちゃんは…。
クシャクシャになっているお札を、一枚づつ丁寧に伸ばしました。そのお札の一枚一枚が、さくちゃんの心のような気がして、胸が絞め付けられるような思いでした。
寝室の掃除を終わらせると、さくちゃんを呼びに行きました。ソファーでは、ゆっくり眠る事が出来ないと思うので、ベッドに移らせてあげましょう。そう思ってソファーの側に行ってみると、さくちゃんはすでに眠ってしまったようです。起こすのは可愛そうなので、そのまま寝かせておいてあげることにしました。
さくちゃんに上掛けをかけてあげてから、洗濯物を済ませようと思い、その場を立ち去ろうとしました。
「怜…色々ありがとな」
さくちゃんが、目を瞑ったままそう言いました。眠っては居なかったようです。
「どういたしまして」
「良かったよ、怜が帰ってきてくれて。俺、どうしようかと思ってた」
「すみません…助けてあげられなくて」
「…・良いんだよ。金もらえたし…。なぁ、金、すげーいっぱいあったろ? 俺、頑張っただろ?」
さくちゃんが目を開けて、私を見つめ、少しだけ弾んだような声でそう言いました。
「そうですね…頑張りましたね…」
さくちゃんが、お金の為ならどんな相手にでも、体を差し出してしまうのかと思うと、とても嫌な気持ちでした。そんな事すぐにでもやめて欲しいと思いました。でも、それは私が言うべき事ではないのかも知れません…。
私は、さくちゃんの親でも兄弟でも、友達でも無いのです。私は、ただの同居人なのです。
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