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side 怜 「…・あの、さくちゃん」  ただの同居人なのですが、さくちゃんに言っておきたい事がありました。 「ん?」 「お願いがあるんですけど」  お金の為に体を差し出すのをやめて欲しいと言いたかった…。 「どんな?」 「今後は、男の方と…いえ、女性の場合もあると思うんですが…セックスなさるなら、ホテルに行くか、相手の方の所に行ってください。それか…前もって連絡を下されば、私は出かけますので――」  私がそう言った途端、さくちゃんが怒ったような顔をしました。 「…わかったよ。気をつけるよ」 「すみません…ここはさくちゃんの家なのに」 「そうだよ! 何勝手な事言ってんだよ」  強い口調で言ってるのに、何故かさくちゃんの表情は悲しげでした。 「でも、お願いします。私がここに住ませて頂いてる間だけで良いですから」 「うん…わかったよ」  さくちゃんの不貞腐れたような、小さい声が聞えました 「さて、さくちゃん、ベッドに行きましょうか?」 「…嫌だ。ここに居たい」 「でも、ここじゃ狭いですよ? これから掃除をしようとかと思ってるので、煩くなりますけど…」 「掃除…今日はしないで良いよ」 「そうですか…良いですけど」 「…なぁ、怜…」 「何ですか?」  目を伏せていたさくちゃんが、上目遣いに私の事を見ました。急に胸の鼓動が激しくなりました。 「あのさ…」 「はい」 「あの、俺…・腹減った」  何を言うのかと思ったら…。 「…わかりました。今、何か作りますね」 「ありがと…」  私はドキドキしたまま、キッチンに立ちました。あの時、私はさくちゃんに何て言われると思ったのでしょう…。  抱きしめたい衝動にかられたのは、傷ついているさくちゃんを慰めたかっただけなのでしょうか? 「なぁ、怜」  キッチンで冷蔵庫を覗いていた私に、さくちゃんが声を掛けました。 「はい、何でしょうか?」そう言って振り返ると、さくちゃんがソファーに起き上がっていました。 「エロ女の事、愛してるの?」 「え…?」  唐突な質問に、私は驚いてしまいました。 さくちゃんに聞かれて、改めて考えてみたのですが、沙江子さんに対しては特別な感情が湧いてきませんでした。 「そうですね…、彼女には申し訳ないのですが、愛してはいません」 「そっか」さくちゃんの小さなため息が聞こえたような気がしました。  私の作った朝食を食べてから、さくちゃんが再びソファーに戻りました。私が羽毛布団を掛けてあげると、さくちゃんは眠そうに目を擦りました。何だか小さな子供みたいな仕草です。 「ありがと、怜」 「どういたしまして。ゆっくり休んでくださいね」 「うん…あのさ、明日は買い物…行けそうもないや。ごめんな」  さくちゃんが、ボンヤリと天井を見上げながら言いました。 「わかりました。大丈夫ですよ、明日はあまり買う物が多くなさそうですから」  本当は、とても残念でした。さくちゃんと一緒に、商店街に新しく出来たお店に行ってみたかった…。

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