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62 saku
side さくら
怜の肩をかりて、風呂場まで行った。
それから、怜が腫れ物に触るように丁寧に、俺の体を洗ってくれた。身体を洗い終わって、すっきりしてから湯船に浸かった。
微妙に緊張するのは、怜の裸の姿を初めて見たからなのだろうか?
俺は風呂に浸かりながら、怜の身体をボンヤリと眺めていた。適度に引き締まった体は、とても均整が取れていて、男の俺でも憧れてしまう。
怜は体を洗うのに夢中で、俺の視線に気が付いてなかったので、俺はしばら怜の体に見蕩れていた。あんな体だったら、女も喜ぶだろうな――。
怜がシャワーで泡を流し始めた、斜めに傾けた怜の首筋に赤紫の小さな痣を見つけた。
そっか…女とやって来たんだもんな…。
怜の体に情事の痕を見つけて、やりきれない気持ちになっている自分がいた。
しばらくすると、怜が俺の視線に気づいて戸惑ったような顔をした。
「怜、首んとこ、キスマークある」
見ていたことをごまかすように俺はそう言った。
「…さくちゃんなんて、身体中にありますよ」
すぐに怜が言い返してきた。今言うべきじゃなかった…自分でもバカだったと思うよ。そうだよ、俺だってメチャメチャやったよ。本意じゃなかったけど利一に弄ばれて感じまくってたじゃないか――。そう思ったら泣きそうになった。何で泣きそうになってんだよ…今までだって、色んな人とやってきたじゃないか。
「煩い! 怜のエロ親父!」
利一にやられてる俺の声を聞いて、発情して女の所に行ったような事を言ってたよな。
俺が酷いめにあってる時に、お前は楽しんでたのかよ…そう思うとイライラしてきた。
「さくちゃんに言われたくありません」
怜が冷めた視線を俺に向けていた。
その通りだよな…怜は血を頂く為、俺は金をもらう為。お互い使えるモノは使わなきゃ――。
俺は悲しいを通り越して、可笑しくなってしまった。生きるためには何だってする。夢のためなら何だって…。
でも、もう嫌だ!
夢の為でも、もう出来ない。俺の中に目覚めてしまった、訳のわからない感情が、俺自身に対して嫌悪感を抱いていた。
怜が、俺を見て微笑んだ。やめろ…そんな目で俺を見るな…憐れみなんて欲しくない。
俺は怜の視線を避け、湯船に深く浸かった。
利一の奴、又店に来るのだろうか? あんな事やっておいて、どんな顔して俺に会うんだろう?
あいつの事だ、要求されたもの以上の金を払ったんだからとか言って、自分のやった事をどうにか正当化するんだろう。
今度あった時、俺は利一の誘いを断わる事が出来るのだろうか?
「さくちゃん、そろそろあがりますけど」
「お前は? 温まんないの?」
「えぇ、さくちゃんを洗っているうちに、暑くなってしまったので」
「そ、俺は、もうちょっと温まるわ」
ぬるめに沸かしてくれた風呂は傷ついた体に優しかった。
先に上がろうとして、怜が俺に背中を向けた。怜の背中には、爪で引っ掻いたような痕があった。俺は、無意識に目を逸らしていた。
怜の腕の中で女が悶えてる姿が脳裏をかすめた。嫌だ……ただ、そう思った。
風呂から上がって体を拭いていると、怜が服を持って来てくれた。怜のサポートが日常的になってしまった今、俺は怜から離れられるんだろうか?
その時、突然怜の手が俺の体に触れた。
「あっ」
無意識のうちに俺は、怜の手を払い除けてしまった。触られるのが怖かった。利一のせいなのか、怜に触れられるのが怖いのか、自分でもわからなかった。
「ゴメン…」
怜はのろのろ体を拭いている俺を、手伝ってくれようとしたんだと思う。俺が辛そうにしてるのに気付いてくれたんだ…。
「いえ。気にしないで下さい」
そう言ったけど、怜が寂しそうな顔をしていた。胸の中がザワザワした。
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